旅立ち
俺たちはバスラにクランを抜けたいという話をした。
揉めるかと思いきや、「そうなる予感はしていた」とあっさり了承された。
まず、フォンが妖精の国へ行く件は、ファルガン共和国に協力を求めることにした。
大使館、冒険者ギルド、それに花猫風月の本拠地であるトゥルメル領主が後援すると表明した。
妖精の国の国民ではなく、ファルガン共和国の国民が捜査協力をする、という形だ。フォンの意思を無視して引き留められたりしないよう、護衛をつけていく。
「過去の因縁をすべて片付けて、身軽になりたいわ」
フォンは落ち着いた表情で、そう言った。
王城の魔塔からも魔法使いが同行する。サークレットの違法性を追究しつつ、妖精族の技術を探ってくると張り切っていた。
以前だったら、旅立つ前の晩にいろいろと仲良くしたと思う。だけど今のフォンには、そういった情緒的な慰めが必要ないみたいだ。
フォンは、本当の自分を探している最中だから、きっと余計な負荷はない方がいい。
俺たちは、フォンを見送った。過去と向き合う旅に幸いがありますようにと祈りながら――
その後、少しして、アーデンたちが国際機関へ旅立つ日取りが決まった。俺もその一行に加えてもらう。アーデンが本拠地にしていたのはハロル支部で、俺は当時エレッサ支部に所属していた。
俺の証言は、一つの支部の腐敗ではなく、他でも同様だったという証明になるらしい。
とんでもないことに、ファルガン共和国の第三王子と冒険者ギルドの幹部も一緒に行くという。
「え? なんで王族まで行くんですか?」
領主の孫のエリオットとの旅だって、緊張したんだぞ。
「レスタール王国の国王を引きずり下ろすことになるかもしれない、大きな事件ですよ。
アーデンとエドガーは身柄の安全のために、ファルガン共和国に呼んだのです。Sランクのバスラの保護下にいるのがいいだろうと、王家からの依頼で引き受けていたのです」
事務長はそう言い、クランの滞在費も国から出ていると満足げに笑った。
別の大陸にある国際機関までの旅は、襲われる危険性もあるということか。
雪豹獣人のラティーアが、俺たちの護衛に加わるという。
クランハウスに挨拶に来たラティーアにサァラがまたキラキラした目を向けて話しかけに行った。
「あたいも一緒に行きたかったにゃ~」
サァラが妊娠していると聞いたラティーアは、無事に健康な子が生まれるように祈ってくれた。
ルナとサァラは、俺たちが旅立つ日に、トゥルメル領へ向かうことにすると言った。
前日はクランをあげての送別会で、アーデンとバスラにワイバーン討伐の話をせがむ人がいたり、とても賑やかだった。
オンも仲良くなった人がいるみたいで、楽しく食事をしている。腕にはぬいぐるみを抱えたままだ。食べ物で汚したら大騒ぎしないだろうかと心配になるが、クランでやっていけそうな様子に安心した。
まだ宴会が盛り上がる中、翌日旅立つ俺たちは先に引き上げた。
廊下を歩きながら、旅の準備の話をした。何度も遠征をしている俺たちにとっては、珍しい話題ではなく、ただ沈黙を埋めるためのような会話。
俺もルナもサァラも、言いたいことがあるような、ないような……そんな空気だけを感じた。
ルナとサァラの部屋の前で、俺たちは握手をして別れた。ハグでもなく、肌を寄せ合うでもなく――
手が離れ、ぬくもりが消える。
今日で何かが終わり、明日から別の方向へ進む。
まるで、そのための儀式のような握手だった。
その後、旅の間に俺はラティーアに「レスタール王国の一件が片付いたら傭兵組織に来ないか」と何度も誘われた。
「男女が恋愛関係になると、人間関係がこじれる。修羅場になる前に距離を置くといい。
それから、情報が世界中の支部で共有されてしまう冒険者ギルドからは、離れた方がいいのではないか。トーマの現在地を知られるだけで危険が発生する」
なるほど。それは俺が知りたかった「いろいろな世界」ではある。
「傭兵は下準備が生死を分ける。人を守るための知恵をたくさん持っているだろう?
『下ごしらえ』というスキルは、我々にこそ必要だ。ぜひ、来て欲しい」
熱烈な口説き文句は魅力的だが、ちょっと俺の行きたい方向とは違うかもしれない。
災害のようなモンスターは倒したいが、人の欲が絡んだ戦いに関わるのは……。
それをはっきり言うべきか迷っていたら、「やっぱり夜這いをかけないとだめか?」とラティーアが言い出した。
「普通に色仕掛けしろよ」
と、アーデンが突っ込みを入れた。
「そうですよね。夜中に襲われるのは、安眠妨害ですよ」
エドガーは、アーデンのクランをたたむ手伝いをしていた時の恐怖を思い出したように、腕をさすった。
「どうやったら、色気が出ますか?」
ラティーアはそんなことを真剣に質問してくる。
ちょっと、待ってくれ。
「俺はそんな……性欲で人生を決めるような男じゃないですから!」
「……そうか?」
とラティーアだけでなく、アーデンにもエドガーにも首をかしげられた。
なんでだ!
……そういう男に見えていたことを突きつけられて、俺は言葉を失った。
完
長らくお付き合いいただき、ありがとうございました!
本編はこれで完結です。
最後まで書けたのは、ブックマークや評価、ページビューなど「読んでいただけている」という手応えがあったからです。
感想を書いてくださった方々にも感謝しています。「これは果たして面白いだろうか」と不安になったときに、とても励まされました。
途中から12時10分に投稿するようになり、お昼休みの楽しみになればいいなと考えていました。pvが12時、13時に伸びると、最新号を追ってくださる方々がいるなぁと嬉しくなったものです。
第十六章が始まるときに「うつ展開が苦手な場合は、完結してから……」と「まえがき」に書きました。それを読んで、待っていてくださった方には、お待たせしました。
番外編のネタはあるので、アップしたときはよろしくお願いします。




