それぞれの道(後編)
「俺は、まだ、知らない世界を見てみたい」
緊張で喉がごくりと鳴った。
三人の視線が痛いくらいだ。
「田舎の村から街へ出て、隣の国に来た。国境沿いのトゥルメル領から王都まで来て、いろんな人や考え方に出会った。魔法を習うこともできた。
まだまだ、いろんな面白いことがあるはずだ」
冒険者として活動しなくても、「冒険」はできる。むしろ、人生が冒険と言ってもいい。
「で、具体的には?」
ルナが問いかける。
「アーデンさんたちが、国際的な機関に呼ばれているんだ。それに同行したいと思っている。
もっと広い世界を見て、何がしたいか、何ができるか考えたい」
「え……そっちに行くの?」
ルナが脱力したように呟いた。
「ん? どっちに行くと思ってたんだ?」
「オンの専属とか。このクランでも期待されてると思うよ」
あ~。ルナたちには「殺す」って言われたことは内緒にしているからな。
あのとき、アーデンが止めてくれなかったら、どうなっていたことやら……。
「俺の手には負えないかな。
美女三人に囲まれているだけで嫉妬されているのに、もう一人増えるとかないだろ」
笑いに持っていこうとして、失敗した。これじゃ、ハーレムに鼻の下を伸ばすオッサンの発想だ。
「俺が同行しなくても、何件か依頼をこなせているんだ。オンはもう大丈夫だよ」
いや、正直に言ってしまえば、全然大丈夫じゃない。あの魔力の前に、そんな日は来ないだろう。
そのあたりは、クランを代表してバスラに引き受けてもらいたい。
もともとその予定なんだから、俺が出しゃばることもないさ。
「え~と、みんなそれぞれ、やりたいことがあるんだね。
このクランからは脱退するということは、決まりでいいのかな?」
「うん。宗教団体とか妖精族とかから守ってもらったけど、腰を据えるのはちょっと違う気がするにゃ」
サァラはそう言ったけれど、たぶんオンと離れたいというのもあるんだろう。
「私は目覚めてから間もないから、積極的にこのクランに所属したいという気持ちはないわね」
フォンが静かに言った。
「んじゃあ、クランは脱退する方向で。
――というか、緊急事態だったから加入手続きしてない気がする」
ルナがこめかみに指を当てて考え、やっぱり記憶がないと言った。
「加入届とか、入会金とか?」
アーデンのクランを解散したときは、集めた金とクランの維持費、解散に当たってメンバーに返さないといけない金の計算が大変だった。
「少なくともあたしはやってない。トーマとサァラは……やってないよね。
あたしたち、すごく特別扱いされてたんだな」
「あの事務長がよく黙ってるねん」
サァラは何か叱られたことを思い出しているようだ。
「脱退したいって言ったら怒られそう。気が重いけど、言うしかないもんね」
ルナが自分を励ますように言う。
ここで、俺は言わなければならない。
「えっと、俺は冒険者パーティーも抜けようと思う」
「なんでにゃ?」
サァラの毛が逆立った。
「いや……実力的についていけないし。国際機関って遠いらしいし、用事が終わったら他の街に行きたくなるかもしれないし。戻ってくると約束できないから、ケジメをつけた方がいいと思うんだ」
なんか、言い訳してるみたいだな。
「それなら、やめたくなったときに抜ける手続きをすればいいのじゃなくて?」
フォンが穏やかに言う。
「私は花猫風月のまま、妖精の国に行きたいわ。こちらに戻らないと決めたら、脱退の手続きをしようと思うの。それでいいかしら?」
「そう、そう。今、急いで決める必要はないにゃ」
サァラが机をぱしぱしと叩く。
「それに、パーティーメンバーのままの方が、連絡も取りやすいしさ」
ルナにも引き留められる。
どこかで、三人のパーティーに居候させてもらっているという意識があった。だけど、俺もちゃんと仲間だったんだ。
俺は頬杖をついて、表情を隠すようにした。変な顔を見られないように……。




