それぞれの道(中編)
フォンがちらりと俺を見た。その目の中に以前のような暖かさがない。それに気付いてしまい、胸が痛んだ。
「私は、あなたたちとの日々を覚えています」
「記憶はある、と表現した方が適切かもしれません。まるで他人の体験であるかのように、その時々で感じたことが本当に自分の感情かわからないのです。
あなたがたに親愛を感じていた中に、どれくらい洗脳された部分が混じっていたのか……」
俺たちとの思い出を否定された?
いや、落ち着け。
フォン自身が混乱している中で、わかりやすく説明しようとしてくれているだけだ。
完全に操られていたわけじゃない。どこからが洗脳で、どこまでフォン自身だったか、本人もわかっていない。
だけど、全てが嘘じゃないはずだ。
「――私自身のものと自信を持って言える感情は、両親を殺された夜までなのです」
ああ。そうか。
「だから、決着をつけてきます。妖精の国へ行き、記憶にある場所を辿ります」
「それは効果がありそうだけど、大丈夫かにゃ? ほら、あの、お祖母さんとか、教団の人とか……」
「その辺りは、妖精の国の大使館や治安維持の部署と相談することになっています。事件解決の捜査協力という形を取る予定です。
両親の墓参りにも行きたいと思います」
フォンは顔色も変えずに話している。
「……そうか」
覚悟を決めたフォンの顔を見たら、何も言えない。
「それは、『花猫風月』を辞めたいということ? ……いや、ごめん。まだ、その段階じゃなかったね。
トーマの希望を聞いてないし」
ルナは早口に、一人で話をまとめた。
「終わったら、一度戻ってきます。
あの祖母は私を見ているのではなく、亡くした息子を忍んでいるだけだと感じますから。その感傷に付き合ってあげようと思うほど、情は湧きそうもないですし」
今のフォンなら、情に引きずられることはなさそうだ。
さて。次は俺だ。
緊張している。深呼吸しよう。
サァラと目が合った。サァラは目を見開いて、俺をじっと見つめてくる。
「サァラ、息してるか?」
「え、なんにゃ? 息?」
ぷはっとルナが吹き出した。
「息詰めてたろ」
そう言っているルナも、な。
フォンが一瞬目を丸くし、微かに口元が笑みを作った。
ああ、やっぱり、いいな。この雰囲気が好きだ。
空気が柔らかくなり、少し話しやすくなった。
「……俺は、モンスターが出たら自警団が頑張るような田舎で育った。だから、冒険者がいてくれたらなって、憧れた。
戦闘系のスキルが欲しいと願ったけど、『下ごしらえ』じゃ冒険者は無理だろって。周囲だけじゃなく、俺も思った」
自分のことを語るのは、恥ずかしいな。
「専業の冒険者になれたけど、身体能力も魔力もたぶんCランクで精一杯だ」
認めたくないが、頑張ってギリギリBランクになっても、体を壊すか事故を起こして引退だろう。
気合いだけでは乗り越えられない現実を、そろそろ認めなければ……。
「このクランでも冒険者ギルドでも、現役の冒険者としてではなく、アドバイザーになってほしいという申し出があるんだ」
冒険者の意見を聞き、実力とすり合わせて作戦を提案するのは、意外と難しいらしい。
「いずれ、そういう道に進むのもいいかもしれない。だけど、俺は――」




