酒を飲みながら
逆ハーレムの女王たちが去ってから、つまみを頼み、酒は二杯目に突入した。
ざわざわした空気に紛れて、一人で考えなければならない気がした。
俺はどうしたいんだ?
身体的な能力の限界は見えた。がむしゃらに特訓をしたって、それを耐えられる体ではない。体を鍛えるどころか、壊して引退する道が見える。
身体能力の不足をカバーするだけのセンスもない。
気配察知や反応速度が相手より優れていれば、なんとかやっていける場面もある。だが、獣人にすら遅れをとる。モンスターは、Cランク相当で精一杯だ。
Cランクの冒険者としてならやっていける。現状維持だ。
Bランクになったルナとサァラに補助してもらうか、袂を分かつか。
作戦や遠征の準備を手伝ってほしいと声をかけられることもある。そういう「下ごしらえ」ならではの働き方もできる。
果たして、それは俺がやりたいことか?
挑戦しないのは嫌だが、挑戦して向いていないとわかってやめるのは、恥じゃない。
何ができるかと、何がやりたいか。
一致すればいいが、一致しないこともある。
そして、今、俺は何がやりたいかがわからなくなっている。
「にいちゃん。飲んでるか?」
無精髭の冒険者に声をかけられた。
「ああ、飲んでるよ」
なんという面白みのない返事か。近くにいる護衛が、ピリッと気を引き締めたのがわかった。
「すげぇ姉ちゃんとしゃべってたな」
「あはは、そうですね」
そっか。普通はうひょ~って、喜ぶところか。それどころじゃないんだけどな。
「おじさんは冒険者なんですか?」
使い込まれた革鎧に、剣を腰に下げている。
「いんや。職人街の用心棒だ。もめ事が起きたときに警備兵を呼ぶか、警備兵が来るまでの時間稼ぎをしている」
「そういう仕事もあるんですね」
「冒険者になるほどの腕はない。それでいて、職人になるほど手先が器用なわけでもない。
まあ、食っていくために働いてるんだ」
目の前の男には、少しくたびれた雰囲気が漂っている。背中が丸まっているせいかもしれない。
「仕事にやりがいとか、何をやりたいかとか考えませんか?」
この人に訊いてどうすると考える自分もいたが、関係ないから気軽に質問できるという面もあった。
「それは……選べるだけの余裕がある人間の話だろう」
男は酒をあおった。
「俺だって若い頃は、冒険者になってがっぽがっぽ稼いで、きれいなねぇちゃんとイチャイチャしたいと夢見ていたさ」
……モンスターを倒すとかじゃないんだ? 俺とは方向性が違うかも――
あ、最初にパーティーを組んだガルドたちが、こういうタイプだったか。
冒険者活動を楽しむんじゃなくて、金持ちになる手段の一つだと……。それなら、俺がうきうきと知識や作戦を説明していたのを、ウザいの一言で切り捨てたのも納得だ。
あ~、そこからして俺たちはすれ違っていたんだな。
「どうやって、現実と折り合いをつけたんですか?」
こんな質問は不躾かな?
「そりゃぁ……女を孕ませちまったからだよ。養わないといけないだろ」
急に声が小さくなり、もごもご言っている。
「そういうのも、立派な生き方だと思います。責任を取ったということですよね」
なんか他にうまい言い方はないかと思うけど……。サァラは「責任を取る」とか言われたら、怒り出しそうだ。
「あたいは自分の行動の責任は自分で取るんにゃ!」とか言って。
「かみさんは料理が下手なんだけどな」
男はそう言いながらも、口元が笑っている。愚痴に見せかけた惚気なんだろうか?
まあ、難しく考えなくていいのかもしれない。
やってみないとわからないし、予想もしない事態が飛び込んでくることもあるだろう。
自分の選択を、自分で引き受ける覚悟さえあれば……。




