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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十六章 ハーレムの行方

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酒を飲みながら

 逆ハーレムの女王たちが去ってから、つまみを頼み、酒は二杯目に突入した。

 ざわざわした空気に紛れて、一人で考えなければならない気がした。


 俺はどうしたいんだ?


 身体的な能力の限界は見えた。がむしゃらに特訓をしたって、それを耐えられる体ではない。体を鍛えるどころか、壊して引退する道が見える。


 身体能力の不足をカバーするだけのセンスもない。

 気配察知や反応速度が相手より優れていれば、なんとかやっていける場面もある。だが、獣人にすら遅れをとる。モンスターは、Cランク相当で精一杯だ。


 Cランクの冒険者としてならやっていける。現状維持だ。


 Bランクになったルナとサァラに補助してもらうか、袂を分かつか。


 作戦や遠征の準備を手伝ってほしいと声をかけられることもある。そういう「下ごしらえ」ならではの働き方もできる。

 果たして、それは俺がやりたいことか?


 挑戦しないのは嫌だが、挑戦して向いていないとわかってやめるのは、恥じゃない。


 何ができるかと、何がやりたいか。

 一致すればいいが、一致しないこともある。

 そして、今、俺は何がやりたいかがわからなくなっている。



「にいちゃん。飲んでるか?」

 無精髭の冒険者に声をかけられた。

「ああ、飲んでるよ」

 なんという面白みのない返事か。近くにいる護衛が、ピリッと気を引き締めたのがわかった。


「すげぇ姉ちゃんとしゃべってたな」

「あはは、そうですね」

 そっか。普通はうひょ~って、喜ぶところか。それどころじゃないんだけどな。


「おじさんは冒険者なんですか?」

 使い込まれた革鎧に、剣を腰に下げている。


「いんや。職人街の用心棒だ。もめ事が起きたときに警備兵を呼ぶか、警備兵が来るまでの時間稼ぎをしている」

「そういう仕事もあるんですね」

「冒険者になるほどの腕はない。それでいて、職人になるほど手先が器用なわけでもない。

 まあ、食っていくために働いてるんだ」


 目の前の男には、少しくたびれた雰囲気が漂っている。背中が丸まっているせいかもしれない。


「仕事にやりがいとか、何をやりたいかとか考えませんか?」

 この人に訊いてどうすると考える自分もいたが、関係ないから気軽に質問できるという面もあった。


「それは……選べるだけの余裕がある人間の話だろう」

 男は酒をあおった。

「俺だって若い頃は、冒険者になってがっぽがっぽ稼いで、きれいなねぇちゃんとイチャイチャしたいと夢見ていたさ」


 ……モンスターを倒すとかじゃないんだ? 俺とは方向性が違うかも――

 あ、最初にパーティーを組んだガルドたちが、こういうタイプだったか。

 冒険者活動を楽しむんじゃなくて、金持ちになる手段の一つだと……。それなら、俺がうきうきと知識や作戦を説明していたのを、ウザいの一言で切り捨てたのも納得だ。


 あ~、そこからして俺たちはすれ違っていたんだな。


「どうやって、現実と折り合いをつけたんですか?」

 こんな質問は不躾かな? 

「そりゃぁ……女を孕ませちまったからだよ。養わないといけないだろ」

 急に声が小さくなり、もごもご言っている。


「そういうのも、立派な生き方だと思います。責任を取ったということですよね」

 なんか他にうまい言い方はないかと思うけど……。サァラは「責任を取る」とか言われたら、怒り出しそうだ。

「あたいは自分の行動の責任は自分で取るんにゃ!」とか言って。


「かみさんは料理が下手なんだけどな」

 男はそう言いながらも、口元が笑っている。愚痴に見せかけた惚気なんだろうか?



 まあ、難しく考えなくていいのかもしれない。

 やってみないとわからないし、予想もしない事態が飛び込んでくることもあるだろう。

 自分の選択を、自分で引き受ける覚悟さえあれば……。


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