ハーレム考察
日が傾く頃に王都の門をくぐり、冒険者ギルドが閉まる前に生け捕りのモンスターを持ち込むことができた。
ギルド職員に声をかけて外に連れだし、台車に掛けてあった布を外す。どよめきが起きた。
「い、生け捕りですか。本当にできるとは……」
「目覚めて暴れられたら困るので、魔物使いや眠り香の対応をよろしく」
リーダーは後の処理を冒険者ギルドに任せた。依頼達成の手続きを早くすませたいと態度が言っている。
俺は人々の賑わいを一歩引いたところで眺めていた。
――疲れた。
本気の殺意を向けられて、気力もごっそり削られた。
「あら、トーマさん。ご活躍ね」
艶やかな声がした。
振り返って見るが、見覚えはない。
波打つ赤茶の髪に、眠たげな瞳。服の上からでもわかる豊かな胸……。一度でも会っていたら忘れないと思う。
「初めましてだわ。あたくし、鼠獣人のミナスが最後に所属していた冒険者パーティーのリーダーですの」
あ! 逆ハーレムパーティーの人か。
「ミナスが宗教団体で捕まりましたでしょ? あたくしのパーティーを脱退していなかったものですから、王都に呼びつけられてしまいましたのよ」
ため息が実に色っぽい。
しゃべっているだけなのに、なんで乳が揺れるんですかね……。
いや、目線。胸の谷間を見てはいけない。顔を見ろ。
いや、ぷるんとした唇じゃない。眉間、眉間に視線を固定だ。
それよりも、訊いてみたいことがあったんだ。
「あの、お時間がありましたら、お話をうかがいたいのですが」
ゴージャス美女は、人差し指を唇に当てて思案した。
「そうですわね。子どもが宿で留守番をしていますから、短い時間でよろしければ」
にこりと大輪の花が咲くような笑顔だった。
俺たちは食事処に移動した。
彼女と、彼女のパーティーメンバーが二人。四人がけの席で、軽く摘まめるものを頼んだ。
俺はパーティーメンバーとの関係を、打ち明けた。
人によっては、ただのモテ自慢だと聞いてもらえないだろう。だが、本当にどうしていいか、悩んでいるんだ。
「あたくしの持論ですけれど、ハーレムの主は大切にされるのを心待ちにするのではなく、愛を振りまく者だと思うのですよ」
「愛を振りまく?」
「あなたは幼少期に愛に飢えていたのでしょう?
パーティーメンバーから慈しみを与えられて、ようやく乾きが癒えてきたところ。
まだハーレムの主になれるのか未知数ですわ」
「飢えを癒やしているだけ?」
「悪いことではありませんわ。一生、渇きに苦しむ人もいますのよ。
たとえばミナス。あの子は自分の乾きを振りかざし、みんなの愛を吸い取ろうとして、自滅した……」
そう言った瞳には、憐憫が見えた。
「みんながあたくしのハーレムにいてくれるのは、愛情を捧げるだけの一方通行ではないからです。
あたくしも、一人ひとりを喜ばせたい。彼は何を喜ぶかしらと考えるのが好きなのです」
同席している二人が、深くうなずいた。
「たまに意地悪をして、許し合うのも刺激の一つですのよ。本気で嫉妬させてはいけません。愛情を当然のものとして胡座をかいてはいけません。
それらを苦労だと思わずにできるから、お互いに幸せになれるのですわ」
うっとりと目を潤ませる姿は、女神のように崇高で美しい。
「愛を求める側のままなら、主になるよりハーレム要員の方が向いているかもしれません。
サァラさんのことが消化できずにモヤモヤしたままだと、苦しいでしょう?」
ああ、妊娠という揺るぎない現実がなければ、まだ違っていたのかもしれない。これから、腹が膨れてくるだろう。
「ハーレムを維持するのは、なかなか難しいものです。無理せずに、解散してしまうのも自然なことですわ。
迷っているようなら、一度、あたくしのパーティーを見にいらっしゃってもよろしくてよ? 溢れるほどの愛を体験していただけるますわ。
――そのまま加入しても、いいかもしれませんね」
流れるように勧誘された。
心なしか、他の二人の目つきが鋭くなった。いや、気のせいじゃないな。
「ハーレムに加わらなくても、作戦参謀としてお迎えできますしね。いつでも歓迎いたしますわ」
そんな言葉を残して、彼女たちは帰っていった。
俺はクランハウスに戻る気になれず、酒を注文する。目の端に、クランのメンバーが映った。
あ、やべ。俺の護衛か。オンに殺されそうになったこと、把握されてんのかね?




