オンの暴走
「どうして、駄目なの? 暴力は振るってないじゃないですか」
オンは俺を睨んできた。
……本当にわからないんだな。
「仲間を罠に嵌めたんだ。ある意味、力尽くってことだろう」
というか、そういうことを平気でやる人は信用できない。「仲間」とも呼びたくないのが本音だ。
「――手に入らないなら、殺しちゃってもいいですか。何が悪くて、何がいいのか、わからない。もう、面倒くさいです」
オンが不気味に笑う。
「い、いいわけ……ないだろ」
殺気を感じた。冗談ではなさそうだと思いながら、冗談のように流す。口ごもったら駄目だ。
弓使いのエルフ、セリアも都合が悪くなったら、殺してなかったことにしようとした。簡単な方に流されたら、行き着く先は犯罪者だぞ。
けれど、何と言って説得すればいい? 俺の言葉はこんな状態になったオンに対して、無力だ。
走ったところで、逃げ切れないだろう。
オンは風魔法で、壁を作った。前方を歩くリーダーたちと引き離されてしまう。
後ろにいるのは、アーデンだけだ。
戦う? 戦闘になったら歯が立たない。なんでこんなことになった? 冷や汗が出る。
「おーい、そこまでだ」
アーデンが割って入る。
「初めての挫折で、自棄になるんじゃねぇよ。せっかくぬいぐるみが手に入ったんだろ。
何年もかけて居場所を作ったのに、失恋ごときで全てを灰燼に期すなよ」
え、俺がオンをふったことになるのか? 恋愛じゃなく、頼りになるとかそういうヤツだろ?
「……失恋? 妾が人族ごときに?」
オンも驚いているじゃないか。
「ははは。本性が出てるぞ。抑えろ、抑えろ」
アーデンは、オンに飴を差し出した。それを口に入れると、表情が緩んだ。
「甘いです」
「そうだろ。落ち着け」
アーデンは俺にも飴をくれた。ガチガチに緊張して、息が浅くなっていた。
「……ありがとうございます」
「さて、風の壁を解除してくれ」
そう言うアーデンに、オンは素直に従った。
こ、怖かった。本当に殺されるかと思った。絶対に敵わないって、肌でわかった。
アーデンがオンの隣を歩く。
「一人だけ突出して強いのは、寂しいだろ。俺はこの国の王都なら好敵手がいただろうが、活躍していた国では一人勝ち状態だった」
ああ。俺たちの故郷の話だな。
「仲間が欲しけりゃ、もっと強い奴らがいる場所に移るか、周りに合わせるか――どうしたいか自分で考えろ。
魔族の国に帰るのは嫌なんだろ?」
「あたしだって甘えたいし、相談して慰められたいし……。これは、仲間が欲しいということなのでしょうか?」
オンとこういう話をしたことはなかった。そうか、寂しかったのか。
「俺にはそう見えるけどな。
それなら、すぐに力でねじ伏せればいいと考えるのをやめるんだ。
討伐で、いざという時の最後の切り札になれば慕われる。出番になって乞われるまで辛抱できれば、な。そういう関係も『仲間』と言えると思うぞ」
「……トーマは、もう駄目ですか?」
突然話を振られた。
「そうだな……。相談されることもなく、オンの思うように誘導されていたなんて……。
サァラの人生をオモチャにしたのも、駄目だ」
うまくまとめられないが、気持ちは伝えないといけない。
「トーマのことは諦めろ。サァラを嵌めたことがバレたから、こいつはお前を一生許さないぞ。
初めてできた『家族』だったんだ」
「あたしは、やり方を間違えました?」
俺はうなずいた。「そんなことないよ」なんて、とても言えない。
「まあ、そういうのも経験だな。偉そうに言う俺だって、自分のクランは滅茶苦茶になって消滅したし、嫁に逃げられたし」
ガハハとアーデンが笑う。
一緒になって笑っていいものか……オンは曖昧に笑っているが、俺にも判断が難しい。
俺を蚊帳の外に置いて、二人は人生論を語り合っている。強い人たちは、強さ故の孤独があるのかもしれない。
口の中の飴を転がす。なんだか、ほろ苦い味がした。




