オンの自白
生け捕りにしたモンスターは、魔法使いが眠らせた。
「怪我人もなく、生け捕りにできるなんて」
リーダーが感心している。
「谷底に転げ落ちる心配がないだけで、動きが良くなったと思うわ」
メンバーの一人がオンを見ながら、そう言った。
「えへへ。ぬいぐるみを買ってもらったお礼だから」
オンは笑いながら、そう答える。
今、「ただのお礼だ」と、一線を引いたか?
オンを自分たちのパーティーに加入させたい人たちと、オンの静かな攻防を見かけるようになった。
「さぁ、一休みしたら、急いで戻るぞ」
リーダーが声をかけ、俺たちは立ち上がった。
岩だらけの山は、足元に注意しないといけない。大きな岩は滑りやすいし、足場にちょうどいい石が崩れるかもしれない。小さな砂利に足元を掬われることもある。
オンが俺に話しかけてきた。
「トーマのパーティーはもう解散するしかないですよね。あたしと組みませんか?」
「え、ちょっと、待て。何を言い出すんだ」
俺は砂利に片足を取られて、股裂きの一歩手前になった。
「うわ、危ねっ」
俺は体勢を整えて、深呼吸をする。オンとは、一度はっきりさせないといけないと思っていたんだ。
「オン。サァラに何をした?」
「……」
オンは答えない。
「俺たちの『花猫風月』が壊れるように、陰で仕込みをしていただろう?」
当たってほしくない推測だ。
「……何か証拠でもあるのですか?」
「状況による推理だけだ。でも証拠を求めるのは、動機に心当たりがあって確認する必要がない場合……違うか?」
王城の迎賓館の資料室で、「尋問官入門」という本を読んだ。そこで得た知識だ。
「誰だって、自分の欲しいもののために、作戦を立てるじゃないですか」
肯定されてしまった。
俺は歯を食いしばり、オンへの情を捨てた。
「程度問題だろう。そのために人の人生を弄んでいいとは、思いたくない」
「あたしと一緒なら、トーマはAランクになれますよ。あたしは、トーマがいれば思いもしなかった方法で、楽しい経験ができます。
お互いにいいことばかりです」
「サァラを排除する必要が、どこにある。オンが俺たちのパーティーに参加したいと、交渉すればよかったじゃないか」
「それでは四分の一です。あたしは独り占めしたいのです」
「そ、それだけのために……?」
「トーマは、あたしがサァラに何をしたと思っているのですか? 彼女が自分で欲のままに行動しただけかもしれないでしょう」
「冒険者の女性は、自分の生理周期を把握している。獣人なら発情期間だ。体が重く鈍くなる期間を把握していなければ、命を危険に晒すからだ。
……オンの特殊能力は、体内時計の操作だろう?」
オンの纏う空気が、ピシッと凍り付くようだった。正解か。
ワイバーン討伐で、鷲の獣人バスラが体格のいいアーデンを抱えて飛んだ。普通に考えて、速さでも機動力でも、バスラが勝てるとは思えない。
岩モグラを魔物使いが操っていたときは、その命令を上塗りするのではなく、岩モグラの動きを遅くしたのだろう。
池の水をファイアーボールで蒸発させたときに、生き物を火傷させない工夫。
そして、今日。
モンスターにアーデンが斬りかかった。それは、アーデンがオンの能力を知っていて、タイミングを合わせられるから指名されたのだ。
どれも対象物の動きや生体活動を少し遅らせるものだとしたら?
一種類の魔法でできる。つまり、生物の体内時計への干渉だ。
であるならば、体内時計を進めて、発情期にすることも可能ではないか。
そんな人の気持ちを無視したような罠は、嫌だ。
「オンは俺の人格ではなく、能力が欲しいだけだろう」
あまり追い詰めてもよくない。答えないオンに、俺の気持ちを説明しよう。
「それの何が悪いのですか?」
「気にしない奴もいるだろうけど、俺は嫌だ。俺は心を通わせて、信頼し合ってやっていきたい」
「そんなの、わかんない……」
「そういうオンの距離感が心地いいと言う人もいるよ、きっと」
オンは答えなかった。この場合、ただの慰めだもんな。
こうやって少しずつ人付き合いのルールを覚えていけばいい。オンも暮らしやすくなっていくはずだ。
俺は正しいことをしていると、いい気になってしまった。




