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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十六章 ハーレムの行方

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オンの自白

 生け捕りにしたモンスターは、魔法使いが眠らせた。

「怪我人もなく、生け捕りにできるなんて」

 リーダーが感心している。


「谷底に転げ落ちる心配がないだけで、動きが良くなったと思うわ」

 メンバーの一人がオンを見ながら、そう言った。

「えへへ。ぬいぐるみを買ってもらったお礼だから」

 オンは笑いながら、そう答える。


 今、「ただのお礼だ」と、一線を引いたか?

 オンを自分たちのパーティーに加入させたい人たちと、オンの静かな攻防を見かけるようになった。


「さぁ、一休みしたら、急いで戻るぞ」

 リーダーが声をかけ、俺たちは立ち上がった。



 岩だらけの山は、足元に注意しないといけない。大きな岩は滑りやすいし、足場にちょうどいい石が崩れるかもしれない。小さな砂利に足元を掬われることもある。


 オンが俺に話しかけてきた。

「トーマのパーティーはもう解散するしかないですよね。あたしと組みませんか?」

「え、ちょっと、待て。何を言い出すんだ」

 俺は砂利に片足を取られて、股裂きの一歩手前になった。

「うわ、危ねっ」


 俺は体勢を整えて、深呼吸をする。オンとは、一度はっきりさせないといけないと思っていたんだ。

「オン。サァラに何をした?」

「……」

 オンは答えない。


「俺たちの『花猫風月』が壊れるように、陰で仕込みをしていただろう?」

 当たってほしくない推測だ。

「……何か証拠でもあるのですか?」


「状況による推理だけだ。でも証拠を求めるのは、動機に心当たりがあって確認する必要がない場合……違うか?」

 王城の迎賓館の資料室で、「尋問官入門」という本を読んだ。そこで得た知識だ。


「誰だって、自分の欲しいもののために、作戦を立てるじゃないですか」

 肯定されてしまった。


 俺は歯を食いしばり、オンへの情を捨てた。

「程度問題だろう。そのために人の人生を弄んでいいとは、思いたくない」


「あたしと一緒なら、トーマはAランクになれますよ。あたしは、トーマがいれば思いもしなかった方法で、楽しい経験ができます。

 お互いにいいことばかりです」


「サァラを排除する必要が、どこにある。オンが俺たちのパーティーに参加したいと、交渉すればよかったじゃないか」


「それでは四分の一です。あたしは独り占めしたいのです」


「そ、それだけのために……?」


「トーマは、あたしがサァラに何をしたと思っているのですか? 彼女が自分で欲のままに行動しただけかもしれないでしょう」


「冒険者の女性は、自分の生理周期を把握している。獣人なら発情期間だ。体が重く鈍くなる期間を把握していなければ、命を危険に晒すからだ。

 ……オンの特殊能力は、体内時計の操作だろう?」


 オンの纏う空気が、ピシッと凍り付くようだった。正解か。


 ワイバーン討伐で、鷲の獣人バスラが体格のいいアーデンを抱えて飛んだ。普通に考えて、速さでも機動力でも、バスラが勝てるとは思えない。

 岩モグラを魔物使いが操っていたときは、その命令を上塗りするのではなく、岩モグラの動きを遅くしたのだろう。


 池の水をファイアーボールで蒸発させたときに、生き物を火傷させない工夫。


 そして、今日。

 モンスターにアーデンが斬りかかった。それは、アーデンがオンの能力を知っていて、タイミングを合わせられるから指名されたのだ。


 どれも対象物の動きや生体活動を少し遅らせるものだとしたら?

 一種類の魔法でできる。つまり、生物の体内時計への干渉だ。


 であるならば、体内時計を進めて、発情期にすることも可能ではないか。

 そんな人の気持ちを無視したような罠は、嫌だ。


「オンは俺の人格ではなく、能力が欲しいだけだろう」

 あまり追い詰めてもよくない。答えないオンに、俺の気持ちを説明しよう。


「それの何が悪いのですか?」


「気にしない奴もいるだろうけど、俺は嫌だ。俺は心を通わせて、信頼し合ってやっていきたい」


「そんなの、わかんない……」


「そういうオンの距離感が心地いいと言う人もいるよ、きっと」


 オンは答えなかった。この場合、ただの慰めだもんな。

 こうやって少しずつ人付き合いのルールを覚えていけばいい。オンも暮らしやすくなっていくはずだ。


 俺は正しいことをしていると、いい気になってしまった。


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