混成討伐パーティー
フォンが繭から出たら、このクランにいるべき理由がなくなる――以前は、そんな話をしていた。
今はそれどころではない。冒険者パーティーの存続の危機だ。
……フォンが療養中なので、実際に「花猫風月」で活動する目途も立っていないが。
フォンの日常の世話はクランで働く人たちに任せることになった。
俺たちは以前のフォンを思い浮かべすぎて、今のフォンによくないと判断されたのだ。
俺たち三人で活動するかというと、そうもいかない。
サァラは格闘家だが、妊娠中なので従来の戦い方はできない。身軽さを活かして、Cランクパーティーに参加して斥候のような役割を担っている。
ルナは剣士の増員をしたいような依頼で、声をかけられている。
俺はというと、遠征の準備や作戦の助言を求められている。AランクやBランクのパーティーに呼ばれるものだから、Cランクの人たちからの嫉妬がすごい。
四人部屋の居心地は日に日に悪くなる。嫉妬されても困るが、自分を上位のパーティーに紹介しろと言われるのもウザい。
実力が伴っていないのに、上位パーティーに参加するのは怖いんだぞ。攻撃のメンバーに数えられていないのも悔しいが、流れ弾から自分の身を守らなければいけない。
猿系のモンスターから荷物を守るのも、あいつら頭がいいから大変なんだ。
そして今日は、難関依頼に同行している。
オンとアーデンも加えると話を聞いたときは、てっきり前準備だけで、俺は現地には行かないつもりだったんだが。
事前の打ち合わせで聞いた依頼内容は、驚くというか、呆れるものだった。
精神攻撃をしてくる大きな鹿系のモンスターを、できるだけ傷をつけないように討伐しろとのこと。生け捕りできれば、尚よしと――無茶を言う。
お貴族様の道楽だろう。
「剥製を作るんですかね」
俺は雑談の中で、質問した。
今回のリーダーであるエルフは、眉間にしわを作った。
「特に腹部を傷つけるなと言うから、おそらくジャ香を取るつもりなんだろう」
「ジャコウですか?」
「『ジャ香のう』という臓器がある。メスを惹きつけたり、縄張りを主張するマーキングをしたりする香りを分泌するんだ。それを使って香水でも作るのだろう」
「え? モンスターの内臓からですか?」
ちょっと、悪趣味な気がする。
「やりようによっては、媚薬や催淫剤が作れるのかもしれない」
「すごい世界があるんですね」
王城の迎賓館に滞在しているとき、貴族がつけている香水が沢山あることを知った。知識としてではなく、すれ違う香りがみんな違うのだ。いい感じの人も、臭くて逆効果だと感じる人もいたな。
とりあえず、俺はその『ジャ香のう』というものを調べて、対策を考えた。
それを伝えたら仕事が終わるかと思いきや、現地まで来いと……。
「AランクとBランクの混成パーティーとか、無理なんですけど」
「責任を持って、作戦を見届けてくれ」
そう言われたら、断りにくいじゃないか。
岩場で野営をした翌日の早朝。
目当てのモンスターに遭遇した。縄張りの中で不審者が寝泊まりしているのだから、奴は攻撃する気で向かってきている。
オンは風魔法で広範囲に壁を作った。岩場は崩れやすく、谷底に落ちたら助からない。
だから、転がってもオンの壁まで、という安全策だ。けれど、ぶつかった人は停止するというより、跳ね飛ばされている。
死ぬよりはマシだが、それなりに痛そうだ。
鋭い刃物の武器は持てない。刃先に布や革袋をつけて、逃げないように威嚇しているだけ。
オン以外の風の魔法使いたちが、包囲網を作っている。
水の魔法使いは、モンスターの尻の辺りにウォーターボールを貼り付かせていた。ジャ香を出されないようにだ。
幻覚作用のあるジャ香を出されたら、俺たちの誰かが自殺行為をしかねない。いや、同士討ちを始める危険性もある。
アーデンが木刀を構えて、間合いを計っている。魔力を通さない布を巻いた木刀だ。
義足になったアーデンだが、剣筋の鋭さは現役のAランクよりも上らしい。
ウィンドボールを何発も当てられ、逃走経路を塞がれて、モンスターは苛立っている。
後ろ足で、冒険者の一人が蹴られた。岩と岩の間に倒れ込み、立ち上がれないようだ。
モンスターが蹴り上げた動きに、ウォーターボールがついていけずに、一瞬外れた。
もわぁっと野性味のある香りが漂う。
腕で嗅がないように防御したが、吸い込んでしまった。
脳裏に、目を潤ませて甘えてくるサァラの媚態が浮かぶ。
「ねぇ、トーマ」と耳元で囁く声や喘ぎ声が……やめてくれ!
ぶわっと強烈な風が吹いた。
オンが風の壁を一旦解除して、この場のジャ香を吹き飛ばした。
リーダーが「正気に戻れ!」と叫んだ。
涙を流している人もいるから、幻覚を見せられたのは俺だけじゃなさそうだ。くそ。モンスターのくせに、ふざけやがって。
すぐに魔法使いがウォーターボールを張り、オンが風の壁を再展開して、俺たちは体制を整えた。
アーデンが、モンスターの眉間を上段から叩いた。
モンスターがぐっと体勢を下げたところで、盗賊役がモンスターの背中に飛び乗る。首に縄で作った大きな輪っかをふわりとかけ、紐を引っ張って輪を小さくする。
その縄の端を別の冒険者に向かって放り投げた。暴れ牛を取り押えるように、その縄を体重をかけて引っ張る。
また、新たな縄を首にかけて、その縄の端もまた別の冒険者に――それを繰り返し、生け捕りに成功した。




