冒険者パーティー
「パーティー解散なんて……なんで、そんなこと言うんにゃ?」
サァラが泣きそうな声を出した。
「サァラ、待って。フォンも、目覚めたばかりなんだ。体調が戻ってから話し合おう」
ルナがサァラを抱き止めた。
数日は様子見と言われていたのに、話し合いができると思ってしまった俺たちのミスだ。
「そうね。今日はこのクランの中を歩きたいわ」
「気持ちはわかるけど、まだ足に筋力が戻ってないだろう。腹がこなれた頃に、ストレッチを教えるから休んでいてくれ」
俺はフォンにそう言って、ルナの方に近づいた。今後の方針を考え直さないといけない。
「トーマはここにいて。フォンから目を離さないで」
ルナにそう言われて、昨日の話を思い出した。――自殺予防か。
「ああ、ごめん」
俺はフォンの方へ戻り、椅子に腰掛けた。
「あのさ、名前なんだけど長いから『フォン』って呼んでいいか?」
「……わかったわ」
素っ気ない返事に、俺も泣きたくなった。
フォンはベッドで静かに過ごしている。新聞や本を読みたがったので、ルナに持って来てもらった。
すぐに疲れてしまうようで、一日の半分を寝て過ごしている。
数日後、魔法使いのオルドがフォンを訪ねて、クランハウスに来た。
その日は俺がフォンの当番だったので、すぐに案内した。
「オルドさんにも大変お世話になりました。繭から出ることができて……」
俺は廊下を歩きながらお礼を伝える。
「別人みたいになったと聞いたが、記憶喪失ではないんだな?」
オルドは俺の言葉を遮った。
「ええ。記憶はあります。あ、ここです。フォン、起きてるか?」
扉をノックして、返事を待ってから部屋に入った。
「オルドさん。お久しぶりです」
フォンは、俺たちに向き合うときと同じ温度で声をかけた。
「サークレットの呪縛から解き放たれて、よかったな」
王城内の魔塔で、二人は何ヶ月もその研究をしていたのだ。
「はい。思考がクリアになりました」
「……そうか。目覚めたら巨大クランに所属していて、驚いたろう」
「まだ、この部屋から出ていないのです」
元々距離が近くないせいか、俺たちとしゃべるときのような、ぎこちなさはない。それを悔しいと感じてしまう心を、押さえつけた。
「歩けるようになったら、王城の魔塔に元気な姿を見せてほしいそうだ。私が王都にいる間なら、同行するから声をかけてくれ」
「トゥルメル領主の王都邸ですか?」
俺は宿泊先を確認しなければと思い、話に割り込んだ。
「いや。今回は商隊の護衛だから、冒険者街の宿にいる」
そんな会話をして、オルドの見舞いは終わった。
廊下に出ると、オルドは声を潜めた。
「サァラが妊娠したそうだな。拠点をトゥルメル領に戻すなら、『光牙の道標』と協力関係を結ぶことも選択肢に入れてくれ」
「え?」
「王都より里帰り出産の方がいいだろう?
活動できないメンバーがいると、受注できる依頼が限られる。ルナがBランクに昇級したのだから、遠慮なく来ればいい」
「それは、光牙の道標の総意ですか?」
「ああ。ぬいぐるみの護衛任務の時、俺たちはうまくやっていたと思わないか?」
「そう……ですね」
自分たちのパーティーが解散の危機であることは、言えなかった。まだ確定じゃないし……。
「ベルーフがお前と遊びたいと言っていたぞ」
「え、それはお断りしたいです」
親父ギャグを飛ばす、人は好いが無神経なドワーフだ。日常的に近くにいるのは、ちょっと勘弁してほしい。




