廊下で待機
フォンの様子がおかしい。
目覚めたけれど、俺たちを他人のように見つめている。しゃべり方にも、あの柔らかなトーンがない。表情が抜け落ちたようで、感情が読み取れない。
「あたい、妖精族の男性と、医務室の人を呼んでくる」
サァラが部屋を出て行った。
「手分けした方が早い。医務室は俺が行く」
俺はサァラに声をかけると、廊下の先でサァラが片手を上げた。了解という合図だろう。
俺が医務室の人とフォンの部屋に戻ると、フォンはクッションに座っていた。ルナはその近くに座っているが、会話は弾んでいないようだ。
ルナは困ったときの顔をして、俺にすがるような目を向けた。
「初めまして、フォンさん。私は英雄バスラのクランで、医務室を預かっているカイと言います。治癒師ですが、遠征についていけなくなったので内勤をしています」
「初めまして、カイさん。フィオルニアと申します」
フォンはニコリともせずに、そう名乗った。
俺の隣で、ルナが小さく息を呑む。
廊下から走ってくる足音が聞こえた。入り口から廊下を見ると、サァラと昼間に会った妖精族の男性だ。
「サァラ、あんなに走ってるけど、大丈夫なのか?」
「本人は、獣人は人族ほど安静にしないって言うんだけど」
俺もルナも人族だから、本当に大丈夫なのかわからない。
治癒師のカイが、「妖精族の男性とフォンに質問をしたい」と俺たちは部屋を追い出された。廊下で所在なく、待つしかない。
ルナが半月刀の手入れを始めて、「痛っ」と指を舐めた。
サァラは空中に拳を突き上げたり、蹴りを繰り出したり、体を動かしている。もう、俺に「体は平気なのか」と声をかける余裕はなかった。
俺は……どうしよう。短剣の手入れは危なそうだし、騎士団で教わったストレッチでもやるか。
内側から妖精族の男が顔を出し、事務長を呼んできてくれと言う。
「そういえば、フォンが目覚めたって報告するの忘れてたな。俺が呼びに行くよ」
何もしないより、体を動かしている方がいい。長い廊下を、機械的に足を動かして進む。
フォンが目覚めれば、全てが解決すると思っていた。どうしてこうなった?
事務長がフォンの部屋に入った。しばらくして出てきて、「当分の間ここをフォンの部屋にする」と言った。
使用人に頼んで部屋に寝具を運び込み、フォンをそこに寝かせる。部屋中に散らばったクッションは、壁際に集められた。
フォンが入っていた繭は、後日、魔法使いたちが回収しに来るという。
住み込みの下働きたちがフォンの体を拭き、着替えさせて寝かせるようにとカイが指示を出した。俺たちは会議室に移動し、そこで話し合いをすることになった。
会議室に着くと、すぐにバスラも来た。
ルナ、サァラ、俺と、バスラ、事務長、治癒師のカイと妖精族の男性レムという顔ぶれだ。
カイが聞き取りの結果を話してくれた。
「サークレットによる洗脳が解けたので、本来の性格が表れている可能性がある」
「『本来の』? 今までのフォンが偽物ってこと?」
サァラが刺々しく反論した。
「偽物とまでは言わない。他人に手を加えられ、ねじ曲げられた部分があるということだ。
それから、記憶の時系列がめちゃくちゃになっているようだ。子どもの頃の出来事も、つい最近の出来事も区別がつかない混乱が見られる」




