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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十六章 ハーレムの行方

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待望の……

「フォンの繭が!」

 ルナの声で繭を見ると、糸のようなものがはらりと上から下に落ちた。

 一筋。また一筋。

 根元の方は離れていないので、蕾がほころぶような様子だ。


「あたい、妖精族の人を連れてくるにゃ」

 サァラが部屋を出て行った。


「走っちゃ駄目だろって……それは人族の場合? 猫獣人はいいのか?」

 俺にはそのあたりの知識がない。


 それより、今はフォンだ。

 顔をそちらに向けると、小さな隙間ができている。だが、その隙間は狭すぎて、中の様子まではわからない。


「この繭、斬ったら駄目なのかな」

 ルナが焦れて、半月刀に手をかけている。


「え、どうだろう? その辺りを訊いておけば良かったな。

 もし、この繭の糸に神経が通っていたら、フォンが痛い思いをするぞ」

「そっか。血管が通っていたら、血みどろになるところだった」

「ルナ、怖いこと言うなよ」

 勢いで斬りかからなくて、本当によかった。


 俺たちはくだらないことを言いながら、繭をじっと見つめている。

 はらり、はらりと糸が剥がれ続ける。


 フォンの姿が少し見えるようになってきた。うずくまって膝に顔を隠している。青緑の髪がフォンを守るように散っていた。

 眠っているのか?

 顔を見せてくれ!



「連れてきた! 冒険者ギルドにいたにゃ」

 サァラと妖精族の男性が駆け込んできた。クランハウスを出て、探してきたのか。


 男性は繭の様子を見て、大丈夫だと請け合った。

「よかったですね。このまま待っていれば、繭から出てきますよ」


「どれくらい時間がかかるにゃ?」

「早めることはできないの?」

「何か、準備しておくことはあるか? 喉が渇いてたりするのかな」

 俺たちに詰め寄られて、妖精族の男性は目元を和らげた。


「それほど心配しなくても、朝になって起きたような状態です。ただ、長く眠っていたので、しばらくボーッとしていると思いますよ。

 このペースだと、夕方までかかるかもしれない。

 交代で、休み休み見守るといいでしょう」

 妖精族の男性は、バスラと事務長に繭が解け始めたと伝えてくれるそうだ。


「あ、訓練中にありがとうございました」

「いや、妖精族が仲間に大事にされていて、嬉しいよ」

 そう言って部屋を出て行った。


「妖精族でも、あっさりした気持ちいい人だな」

「どういうこと?」

 ルナに訊き返される。

「あ~、王城でフォンに付きまとっていた妖精族がしつこくて。フォンが怖がってるのに、ぐいぐい来るような連中ばっかりで」

 そう言ってから、しつこい人とそれを止めようとした人がいたような気がした。俺も怒りを感じていたから、少し悪く言ってしまった。


 交替でとは言われたが、誰もその場を離れようとしなかった。

 ようやく、ようやくだ。


 昼時に、医務室の人がサァラを探しに来た。

「安静だと言ったのに、何をやっているんですか!」

 走り回ったなんてバレたら、大目玉だ。


「えっと、仲間が復活しそうなんにゃ。ここで待ちたいんだけど……」

「仕方ないですね。クッションを集めて、横になっていなさい」

 そう言いながら、毛布を持って来てくれた。


 俺は皆の分も食堂に昼食を取りに行き、すぐに部屋に戻った。


 はらり、はらりとペースが一向に早くならない。じりじりと時間が経つのを待つだけ。

 一度、事務長が様子を見に来た。


「隙間から手を入れたら駄目なのかな」

 つい、そんな言葉が出てしまう。

「あの妖精族の人に訊けばよかったね」

「でも、待てって言われたからなぁ」

 俺は自分の発言を自分で否定した。


 サァラはくうくうと眠っている。

「眠ってるのが二人になったな……」

「じゃあ、王子様がキスでもする?」

 ルナにからかわれた。



 はらり、はらり。

 ほとんどの糸が落ち、鳥かごのような状態になってきた。

 フォンの頭がすっと上がり、時間を掛けて目蓋が開いていく。

 その目には、何も映っていないようだ。

 俺たちが声をかけても、手を振っても反応がない。


 日が傾き、もうすぐ夜になる。


 ここまで来て……俺たちは焦った。

 サァラも目を覚まし、声をかけている。


 最後の糸が落ちた。

 フォンの目が動いて、俺たちを見た。


「あたしたちのこと、わかる?」

 ルナが問いかけた。不安そうな声だ。

「……ええ。仲間……ね?」

 少し反応が鈍い。


「冒険者パーティーで、『花猫風月』だにゃ。覚えてる?」

「……ああ、そうね。そんな名前だったわね……」


「自分の名前、言えるか?」

「……フィオルニア」


 それは、あの妖精族の老婦人が言っていた名前だ。


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― 新着の感想 ―
まさかの記憶喪失……ではなさそうだけど、これまでの事を自分のこととして認識できなくなってるのか? サァラ謎の発情期といい、不穏ですねぇ。 このまま素直にパーティーを維持、は、そもそも実力差が見えてきて…
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