ほどけていく
フォンの繭がある部屋には、クッションが置いてある。それぞれ好きなクッションを手に取って、その上に座った。
俺は軽く咳払いをした。
「サァラ。その……体調はどうだ?」
「今は眠気が強いくらいかな。心配かけてごめんにゃ」
いつもより力ない笑顔で、へにゃりと笑う。
「これからは依頼を選ばないとね」
ルナがそう言うと、サァラは首を振った。
「動けなくなる前に稼いでおきたいにゃ」
「それで無理して倒れたら、元も子もないでしょ。たぶん、他の冒険者パーティーは組んでくれないよ」
ルナが現実的なことを言うと、サァラはうつむいた。
「あ、ごめん。そういう話はあとで、だよね。これから『花猫風月』として、どうしていくかを話し合おう」
俺はごくりと唾を飲み込んだ。
「産むよ。数年経って、手が離れたら冒険者に復活するにゃ」
サァラがさらりと言った。
あ、産むんだ。
そうか、そうだよな。
でも、冒険者は辞めないと言っている。
数年って十数年だろ? 人族と子育てにかかる期間が違うのか?
冒険者活動している間、子どもはどうするんんだ?
――まあ、それはサァラが考えることか。
俺は、自分がどうしたいか答えを出さなきゃいけない。
妊娠がわかる前から、冒険者のランクが違うと一緒にやっていくのは難しいと考えていた。
ここできっぱりと、花猫風月から抜けるという道もある。
ルナはどうしたいんだろうか?
ちらりとルナを見ると、眉を寄せて心配そうに俺を見ている。
「トーマが気持ちの整理がつくなら、このまま一緒にやっていきたいと思ってる」
ルナは思い詰めた様子で、そう言った。
嬉しい気持ちと、俺に責任を被せてきたなという反発が同時に湧き上がった。
「トーマの気持ちって?」
サァラがきょとんとした顔をする。
し、信じられねぇ。開き直った?
「あのさ、サァラ。人族は割と子どもの父親が誰かを気にするんだって、説明したじゃん」
「うん」
「だから、サァラの子どもの父親がトーマじゃないってことで、ショックを受けているの」
「え、そんなにあたいのこと好きなの?」
なんだか会話が噛みあっていない。
苦悩していた俺がおかしいのか? いやいや、普通にショックを受けるだろ?
「あー、えっとね。トーマの生まれ故郷は獣人がいなかったみたいだから、知らないのかもしれないけど。
倫理観というか貞操観念が、獣人によって違うんだよ。
狼獣人なんかは厳格な一夫一婦制なんだけど、猫獣人は相手が一人とは限らないの」
……!
サァラの山小屋で、幼なじみの男に「今回はお前か」と言われた。
あれは、そういう意味だったのか。
そんな関係の奴が「今回は俺か」って言っただけのこと? その場合、俺は抗議できるような立場じゃない……?
え、ちょっと待て。ついていけない。
「サァラ。人族だったら『裏切ったのか』って修羅場になるんだよ。トーマだから冷静に話し合おうとしてくれてるけど」
「そっか。やっぱり、トーマはいい男にゃ」
サァラが、無邪気な笑顔を見せた。
だ、だから、そういう話じゃないだろ! 頬が緩むとか、馬鹿だろ、俺。単純すぎる。
ああ、くそ。もう、情緒がめちゃくちゃだ。




