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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十六章 ハーレムの行方

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ほんの少しの勇気

「トーマ。何やってるんだ。悪いと思ったら、すぐに謝れ」

 俺は誰かに腕を掴まれ、のろのろと顔を向けた。

 アーデンだった。俺に顔を近付けて、ツバを飛ばす勢いで説教してくる。


「ショックなのはわかりますが、言い過ぎたと自分でも思っているのでしょう?」

 その後ろからエドガーが顔を出し、男女の機微を説明する。

 要は謝れ、ということだ。


 こういうとき、フォンが仲裁してくれていたんだよな。そんな甘えた考えが頭をよぎった。

 ルナとフォンとサァラ――とてもバランスのいいパーティーだったと身に染みてわかる。


「俺、思い上がってたみたいで」

 うつむいた瞬間、涙がこぼれた。ちょっと、これは情けなすぎる。朝食の時間に食堂の前で……涙、止まってくれ。


「男はすぐに調子に乗る。仕方ねぇよ。そういうもんだ」

 アーデンが大きな体でさりげなく人の視線を遮ってくれた。

「なんか、突然で頭がついていかなくて……選ばれたのは俺じゃないとか、そんなのがぐるぐるして……」

 ああ、もう、駄目だ。弱音を吐いてしまった。


「うん、うん。その辺の事情は、サァラ本人に訊かないと」

 エドガーがもっともなことを言う。

 俺はズビッと鼻をすすると、顔を上げた。


 まずは事実確認、情報収集。それから自分はどうしたいかを考えて、関係者と話し合う。

 うん。いつもやっていることだ。



 まずは、ルナを探そう。


 サァラのいる医務室に向かう。

 廊下に食事を運ぶワゴンが置いてある。ワゴンは空なので配膳済み。つまり食事中ということだろう。


 緊張する。ルナがいなくても、サァラはいる。

 ルナがいなかったら、どうする? 先にサァラと話すか? ルナを放置するのはまずいが、気まずいままサァラを置いて探しに行くのも……。


 ここで考えていても仕方ない!

 深く息を吸ってから、医務室の扉をノックした。


 パッと視線を上げたとたん、ルナと目が合った。サァラの食べ終わった食器を運んで、入り口に向かってくるところだった。


 言え。言うんだ。

「ルナ、ごめん! 言い過ぎだ」

「あたしも……。あんなこと思ってないから」


 あ、なんだ。普通にしゃべれる。


「びっくりさせて、ごめんにゃ」

 ルナの後ろから、サァラの声がした。ベッドの上で起き上がることができるようになったらしい。


「ああ、びっくりしたよ」

 俺は素直に、そう答えた。


 朝食を食べ終えたら、サァラは医務室を出る予定だったそうだ。

「じゃあ、フォンの部屋で話そうか」

 ルナがそう提案し、俺たちは移動した。

 話さなければいけないことが山ほどあるのに、誰も最初の一言を口にできない。奇妙な沈黙の中で、とにかく足を動かし、前へ進む。いつもは意識せず、スムーズに歩けるのに……意識すると、ますます変になる。


 ぎこちない足取りのせいで、何もないところで躓きそうになる。

「おっと」

 たたらを踏んだが、踏みとどまった。

 あー、もう、こんなときになんなんだよ。かっこ悪い。


「ふっ」

 サァラが吹き出した。

 ルナも笑いを堪えるような顔をしている。


「なんだよ」

 拗ねたように口にすれば、いつもの雰囲気が戻ってくる。


 まだ、モヤモヤとした気持ち悪さは残っているが、それを前面に押し出しても何も解決しない。しゃべりやすい雰囲気になったなら、それを壊すな。

 俺は自分にそう言い聞かせた。


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― 新着の感想 ―
こういうときに手を貸してくれる「目上の」人は貴重。 大半は見て見ぬふりですからねー。
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