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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十六章 ハーレムの行方

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悪循環にはまる

「俺は……もう寝る」

 言ってはいけないような言葉が、口から出そうだ。こういうときは寝てしまうのが一番だ。……眠れるならば。


「あ、そうだね。お休み」

 ルナの声を背中で聞いた。

 たぶんショックを受けただろう。ルナの顔を見ることができなかった。


 普段は物わかりがいい大人のふりをしていても、俺はこんな程度の人間だ。自制しなければ、卑屈な言葉が次々に出てしまう。

 俺は、彼女たちに相応しくない。


 俺は四人部屋で、布団を被ってうずくまることしかできない。


「もう寝たのかよ? なあ、猫の子の父親ってさぁ……」

 同室の人間が最悪だ。

 俺は布団を強く握りしめ、唇を噛む。今、布団から出たら殴りつけてしまいそうだ。ただ、ただ、耐えるしかない、長い夜だった。



 一方で、ルナは、フォンの繭の側にそのまま座り込んでいたそうだ。そこに風の魔法使いが来て、一晩中ルナを慰めていた。


 そんな噂話を、朝食の場で耳にした。


 ルナも……か。

 俺はパーティーに加えてもらって、近くに居たからそういう関係になっただけで……他の誰かでも構わなかったんだな。

 俺のハーレム状態をやっかんでいた連中が、面白おかしく話を広めている。


 食欲が一気に失せた。



 食堂を出たところで、ルナとぶつかりそうになった。

「変な噂が出てるけど、あたしたち何もしてないから」

 焦ったように言うルナに、ムカッとする。「あたしたち」という言葉が、すごく癇に障る。はっきり言って、不愉快だ。


 体の関係はないと説明されたが、どす黒い嫉妬心がむくむくと湧いてくる。

 俺に怒る資格はないと、頭のどこかではわかっているのに。

「俺に説明しなくていいよ。何か約束をしていたわけじゃないしさ」


 ルナの頬に朱が刺した。眉がつり上がる。

「事実を説明しているだけじゃん! 話を聞いてよ」


「俺たちは冒険者ギルドからの依頼を一緒に受けるために、パーティーを組んでるってだけだろ。

 何かを約束しているわけじゃない。プライベートは好きにしていいんだぞ」

 ああ、なんて嫌味な言い方をしているんだ。やめろ、口を閉じるんだ、俺。


「何を言い出すのよ。それだけのわけ、ないじゃん。そんなら、とっくに解散してるよ」


 ああ、そうだ。俺たちは協力し合って、ここまで来た。

 それなのに、俺はなんで揺らいでいるんだ? こんなにも不安で、悲しい。


「トーマなんか、次々と騒動に巻き込まれるじゃん。普通の仲間だったら、とっくに決別してるよ」

 ルナが言ってから、青ざめた。


「……そう思っていたのか」

 ああ、そうだ。俺が加入しなければ、宗教団体に狙われることも、フォンが妖精族に見つかることもなかった。

 王都に来る必要もなく、トゥルメル領で和気あいあいと冒険者をしていただろう。


「あ、ごめん。違う。それくらい、大切って言いたいだけで……」


 ただの売り言葉に買い言葉だ。頭の片隅ではわかっている。

 だけど、俺が厄介ごとを招いているのは、否定できない。

「いや……そうだよな。悪かったよ。俺が抜けるから、昔みたいに三人で仲良くやってくれ」


「――わかったよ。あたしたち、『約束してない』んだもんね」

 俺が口にした言葉が、そのままの刃になって俺を斬りつける。

 言われてみて、実感する。ひどいことを言ってしまったんだ。

 どうしよう。

 焦るばかりで言葉が出てこない俺を睨みつけ、ルナは荒い足音を立てて食堂を出て行った。


 俺には追いかける資格もない。追いかけて捕まえたところで、何を言えばいい?

 もう、どうしたらいいか、わからないんだ。

 ――ただ、その場に立ち尽くしていた。


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― 新着の感想 ―
対話を拒否してしまえば別れるしかなくなるのよねー。 ルナにしてみれば、まず話し合いたかっただろうに聞く耳持たない人間には話す気も失せる。 本来なら他の人が間に入って取り成せばいいんだけど、フォンが不在…
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