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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十六章 ハーレムの行方

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予想外の出来事

 サァラが担ぎ込まれてきた。

 最近、ちょっと具合が悪いみたいだったから、心配していたんだ。


 俺はクランの会議室にいたから、急いで医務室へ向かった。


 ルナがベッドの横に椅子を置いて座っている。

「……トーマ」

 ルナの顔は真っ青だ。そんなに具合が悪いのか? 走ってきて心臓がバクバクしている。そこへ、嫌な脈動が加わる。


「そんなに具合が悪かったのか? 依頼を無理して受けるなんて、サァラらしくないぞ」


 サァラは横になったまま、俺の方に顔を向けた。眉を下げて、泣きそうな顔をしている。

「子どもができたんにゃ」



 は?



 ……こども?


 子ども? 

 子どもができてもおかしくないことはしている。

 その先の覚悟が足りなかったのを、反省しよう。種族が違うと子どもができにくいということで、油断していたかも。


 あれ? 最近はしていない……ような。


 ベッドの上のサァラが、怯えるような目で俺の反応をうかがっている。

「トーマとの子じゃないにゃ」


「……そ、そっか」

 はっきりと言われてしまった。そうだよな。

「体を冷やさないようにして、ゆっくり休んだ方がいい……らしい。たぶん」

 妊娠初期の一般論を、なんとか絞り出した。


「俺、打ち合わせの途中だったから、戻るな」

「あ、うん」

 サァラが小さな声を出した。


 俺は医務室の入り口で振り返る。言い忘れてた。

「……あの、おめでとう……」

 医務室に沈黙が降りる。

 俺は返事を聞かずに立ち去った。


 廊下がやけに長く感じる。誰かにサァラの様子を訊かれたような気もする。

 これは現実なのか? 悪い夢を見ているような気がする。


 会議室に戻ったが、何を話したか覚えていない。

 オンにサァラに何があったのかと尋ねられた。「怪我はしていない」と答えた記憶だけが、微かにある。



 気がついたら、俺はフォンの繭にすがりついて泣いていた。

 何の涙だ、これは。

 俺とサァラは恋人同士ですらない。

 裏切りと言うには、一対三で俺の方だって誠実とは言えない。


 理屈を頭の中でこねくり返しても、感情がついてこない。

 裏切られたという強い思いが、次から次へと湧いてくる。

 なんでだよ。俺の何が悪かったんだ。


 考えたくない可能性が、腹の中をかき混ぜる。

 獣人に比べたら体力は劣っている。人族の中でも突出しているわけじゃない。

 子孫を残すなら、少しでも強い相手がいい。……俺じゃなくて、当然か。


 三人から好意を向けられることを、いつの間にか当然だと思うようになっていた?

 根拠なく、ずっと続くと……。

 みんなで笑い合っていられると……。


 悔しい。俺は選ばれなかった。



 部屋がノックされた。

「トーマ。よかった。ここにいた」

 ルナが心配そうに入ってきた。堅焼きのビスケットと水筒を持っている。


「食べられそうなら、パンとスープをもらってくるけど」

「いや、いいよ。ありがとう」


 水筒に口をつけると、喉が渇いていたことに気がついた。ぐびぐびと飲み、ビスケットをかじり、水で流し込んだ。


「……ルナは知ってたのか」

「うん。ちょっと前に聞いた」

 ルナは自分の指先を合わせて、もぞもぞと動かした。

「幼なじみだって。オンと山脈に行ったときの」


 気になっていた。でも、知りたくなかった。

 あいつか。俺がサァラに助けられた時に、家を訪ねてきたやつ。

 幼なじみと暖かい家庭を作るのか。そこに俺の居場所はないな。


「あのさ。サァラの話も聞いてあげなよ」

 そう言われても、言ってはいけない言葉ばかりが思い浮かぶ。

『なんで?』『今さら言い訳なんか聞きたくない』『そいつと幸せになればいいだろう!』


 ……俺は、自分が一番じゃないと嫌だと思っているのか。自分の本音が露わになって、その卑しさに吐き気がする。


「サァラにも事情があったんだって」

 ルナの声に苛立ちが混じる。

 どんな事情だよ。男としてのプライドが傷つけられて、素直に聞き入れられない。

「他の男を選んだ、それだけのことだろ」


「ちょっと。それ、本気で言ってるの? 人族と猫獣人は違うんだってば」


 ルナの言葉が頭に入ってこない。ただの慰めだ、と心が拒絶している。


 ああ。今になってわかる。

 俺の父親は、俺が自分の子じゃないかもしれないと、無視するように生活をしていた。悔しくて、情けなくて、直視できないよな。


「サァラがどんな子か、知ってるだろ」

「知っているつもりだったけど、何もわかっていなかったのかもな」

「だったら、今からでも知ろうとしてよ。このまま駄目になるなんて、嫌だよ」

 らしくもなく、ルナが泣き落としのようなことをしている。


「俺が抜けて、元の『花猫風月』に戻るだけだ」

 その言葉はルナから言葉を奪い、俺自身の胸を抉った。


 そうだよ。俺は後から混ぜてもらっただけじゃないか。


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― 新着の感想 ―
むむむ? 種族的な話かな? まず話を聞いてみないとなんとも言えん。
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