Bランク
ルナとサァラが、Bランクの昇級試験を受けに冒険者ギルドへ行った。
見に行きたかったが、その日俺には用事があった。
予約していたオンのぬいぐるみができたと連絡を受けたので、それを買いに行かなくてはいけなかったのだ。
申し込んだ本人が窓口に行き、代金を全額支払わないといけない。
俺の護衛と、大金を運ぶ人とその護衛というメンバーで、王城のぬいぐるみ窓口へ向かった。オンはその場ではしゃぐと困るので留守番をさせた。
ついに三つの魔法の制御ができて、入れ物から紙を無事に取り出せた日は、すごかったのだ。
オンは感動のあまり、魔力を爆発させた。訓練場にいた人たちは爆風で壁に叩きつけられ、火柱が上がり、訓練場は水浸しになったそうだ。
オンの能力をバスラのクランが独り占めしてズルいという評判は、未だにある。
けれど、その日の様子を大勢の冒険者が目撃した。目撃のみならず、被害に遭った人もたくさんいる。
おかげで、強引な勧誘はかなり減ったらしい。
まあ、事務長はオンを引き抜かれたら、今までかかった生活費と修繕費を相手に請求するつもりだそうだ。契約書はすでに準備してあると、やり手の商人のような作り笑いで微笑んでいた。
ぬいぐるみができあがるよりも先に、オンがぬいぐるみを手にする権利を得てしまった。そのため、オンは一日千秋の思いで、待っている。何度も「まだ、連絡は来ませんか?」と訊かれた。
幸いなことに、オンはぬいぐるみ代を出してくれたパーティーの討伐依頼に、参加している。先日も楽しそうに討伐の様子を聞かせてくれた。
ちょっと気になるのが、そのパーティーのリーダーに「トーマに一緒に来てもらうんだった」と愚痴をこぼされたことだ。
「その辺りは、俺の担当じゃないので……すみませんね」
と、受け流しておいた。
ぬいぐるみを引き取ってクランハウスに戻ると、ルナとサァラが玄関で俺を待っていた。
サァラに飛びつかれたので、ぬいぐるみを頭上にあげて、潰されないようにした。
合格したんだな。
「おめでとう!」
「ありがとう! あたいたち、頑張ったにゃ」
俺の護衛をしてくれた人が、ぬいぐるみを受け取ってくれた。
「これで、二人部屋になったよ」
ルナも顔を紅潮させて、嬉しそうだ。
「ああ、Bランクはそうだよな。これでぬいぐるみを飾れるな」
クランハウスの中とはいえ、油断した方が悪いと言われることがある。自分の持ち物の管理には、神経を使っている。
一緒に喜びながら、ちくりと棘のような痛みを感じてしまった。
フォンが繭から出てきたら、一人で四人部屋に入るのは可哀想だな、と。
それに、俺とフォンはCランクのままだ。これから依頼を選ぶのが難しくなるかもしれない。背伸びしてBランク相当を選ぶか、安全を優先してルナとサァラの能力を発揮できない依頼を選ぶか。
俺が足を引っ張るのは、嫌だな。
せっかく二人の努力が実ったのに、水を差すようなことを考えてしまった。卑屈な自分に、自己嫌悪する。
「今日は、お祝いしなくちゃな」
そうだ。頭を切り替えろ。
いいことがあったら、俺たちはちょっといい食べ物を並べて乾杯するんだ。
「あの、あたしのぬいぐるみ獲得祝いもしてほしいです」
オンの声がした。
ここは玄関だから、クランメンバーたちに注目されていた。オンがぬいぐるみを待っていたのを知っているのに、待たせて悪かったな。
「あ、ああ。じゃあ、何か……厨房を借りて作るか」
そう返事をしたら、ルナとサァラの空気が変わった。
「悪いんだけど、パーティーとして相談したいこともあるから、それは別の日にしてくれる?」
パーティーのリーダーとして、ルナははっきりと意思表示をした。サァラも頷いて、ルナに賛成している。
いけない。そうだよな。八方美人なところは反省しないと。
「――そうですか。なるほどです」
オンは特に気を悪くした様子もなく、さっと引いた。
「ぬいぐるみは引き取ってきたから。えっと、バスラさんのところに行くといいよ」
「ありがとうございます」
オンに「冷たくしてごめん」という気持ちと、パーティーメンバーを大事にするべきという気持ちで、一瞬迷った自分を恥じた。
全力で、お祝いの準備をして、フォンの繭の周りに並べよう。今日は、楽しいことや希望だけを語るんだ。
その後の日々で、俺は身体能力的に、ついていけないことが何度もあった。二人の背中が、とても遠い。
ルナとサァラの前では明るく振る舞い、フォンの繭に愚痴をこぼすことが増えた。
「フォンも起きたら焦るよな、きっと。早く出てきてくれよ。待ってるからさ」
俺たちは三人で活動するより、他のパーティーに助っ人として入ることが多くなった。
俺はオンのサポーターとして、適任らしいのだ。クランマスターのバスラにも、オンが暴走しない討伐計画を立てるように指名されてしまった。
Bランクに上がった二人は、より腕を磨くべく難易度の高い依頼に参加させてもらっている。
少しずつ、俺たちの花猫風月が、形を変えていく……。




