希望の光
最終章の予定です。
うつ展開が苦手な方は、完結してからまとめ読みしていただくのもいいかもしれません。
バスラのクランにも、徐々に馴染むことができた。一緒に依頼を受けると仲間という意識が芽生える。
気心が知れるというか、依怙贔屓されてズルいという色眼鏡が取れるというか……。
まあ、特別扱いではあるよな。
フォンを妖精族の使者から守るために、緊急で加入した。本来なら加入申請をして、審査を通る必要があったそうだ。
そのまま個室がフォンの繭のために与えられて、俺には護衛がつけられた。新参者に対して、どれだけ手厚くするつもりなのかと――
バスラに対する不満にも繋がりかねなかったらしい。
宗教団体から連行してきた魔導具の専門家と、たまに顔を出してくれるオルドが、いろいろと研究してくれている。
「オルドさん。『光牙の道標』の皆さんはお元気ですか?」
「本拠地をトゥルメル領に移してから、隣国への護衛依頼が増えたな。
メルティナが、教えたことを練習しているか気にしていたぞ」
「槍で叩かれたのは覚えてますけど……」
俺たちを後輩のように指導しようとしていた、女性の槍術士だ。あれからまだ一年も経っていないのに、ものすごく時間が経ったように感じる。
フォンの繭の前で、そんな雑談をしていた。
その横で魔導具師は黙々と何かを床に描き、ぶつぶつと唱え続けている。
ふと、繭の一部にしわができたように見えた。
「オルドさん、あの辺りに変化が……」
「詠唱を続けろ。ああ、中から小さなものが押し出されるような――」
オルドは魔導具師に命令して、繭に顔を近付けた。
小さな石が繭を突き破って、まるで吐き出されるかのように転がり落ちた。
俺はとっさに手で受け止める。
「サークレットについていた石みたいだ」
「おい、これが外れたら、命の危険は去ったと考えていいのか?」
オルドが魔導具師に質問する。
「はい。サークレットから石が外れて、頭蓋骨を狙うという術式が解除されたので。ひとまずは……」
「繭は? いつ繭が解ける?」
俺は勢い込んで尋ねた。
「そ、それは、本人次第ですね」
妖精族が繭化するのは、ある種の自衛本能だそうだ。それが解けるのは、安全だと本人が確信したとき。
つまり、何日か何年になるかは、わからないそうだ。
「そうなったら、この魔導具師は用済みだな。警備兵の詰め所に突き出すか」
オルドが意地悪い言い方をした。
「え? ここのクランは居心地がいいので、このままでもいいですけど」
そう言われても、俺は新参者だし、オルドはこのクランに所属していない。オルドは「どれだけ優秀か、クランの幹部に訴えたらどうだ」と助言している。
とりあえず彼らを放置して、俺はルナとサァラを呼びに行った。
「よかったね、よかった」
ルナが繭を撫でる。
「早く出てくるにゃ」
サァラが繭に頬ずりをする。
俺は二人の背中に立って、三人分まとめて抱こうとした。だが、それには腕の長さが足りなかった。
「トーマ、痛いにゃ」
繭に押しつけられる形になったサァラに苦情を言われた。
「はは、ごめん、ごめん」
俺は顔を見られないように繭の裏側に回る。ルナが俺の手を取り、サァラと手を繋ぐ。自然と三人で繭を取り囲む形になった。
いつの間にか、オルドも魔導具師も部屋を出ていた。
静かな部屋に、誰かの嗚咽が漏れている。
翌日、宗教二世のリロイが呼ばれて、幹部と話し合いをしていた。
教団の洗脳がどれくらい解けているのかなど、しばらく観察することにすると聞いた。
石に刻まれた術式を解析したところ、フォンの本名がキーワードになっていた。
あのとき、祖母が名前を叫んだせいだと……。
リロイと魔導具師が推測したところ、教団にとって都合の悪いことを思い出されたら、殺す。そんな胸くそ悪い計画ではないかと……。教団の中にはいくつもの派閥があるので、断定はできないそうだが。
本当に外道な奴らだ。これで、教団とフォンの縁が永遠に切れますように。




