意外な調査結果(後編)
ちゃぷっと水音がして、ラッコ獣人とビーバー獣人の頭がのぞいた。二人は水面に静かな跡を残しながら、こちらに戻ってくる。
「いたいた。だけど、このまま死んだことにしておいてくださいって懇願されちゃったよ」
ラッコのリーダーはそう言って、体をぶるりと揺すり、水滴を飛ばした。
ビーバー獣人は抱えてきた布を岸辺に置いて、俺たちの方に歩いてくる。平べったい尻尾が揺れて、その可愛さに癒やされる。
「今、村に残っているのは、面倒くさいことを他人に押しつけて楽をしようとしていた連中さ。
生活の細々としたことを押しつけ合って、消えた人間が一人でも戻れば……って、ことなんじゃないかな。連れ戻されたら、前よりもひどいことになるって、みんな怯えているんだ」
ビーバー獣人は行方不明者たちの代理として、俺たちと交渉するつもりらしい。先ほどとは打って変わって、力強く主張してくる。握り込んだ拳を上下に振りながら、一生懸命に説明している。
「当事者の意思を優先するのはいいんだけど、問題はこの依頼をどうするかなんだよなー」
ラッコのリーダーは腕を組んで悩み出した。
「何も見つからなかったって村長に報告したら、依頼失敗ってことになるだろう? かかった経費だけでも出せって交渉するのも面倒だし、依頼失敗の履歴がつくのを被るほどの義理もないし」
「そういう事情もわかるんだけどさ、何とかならないかな。家族や仲間たちに、奴隷みたいにこき使われて、生きる希望も持てなかったんだ。ようやく笑顔を取り戻したところで……」
「お前は同情しすぎだ。壁が厚いくせに、一度懐に入れたらとことん甘くなる奴だな」
「いつも、俺に『みんなと仲良くなれ』って言ってきたのに、気に入らないのかよ」
「ああ、気に入らないね。その中に俺たちを含めろって」
「大勢でワイワイやるのが苦手だって言ってるだけだろ」
また言い争いが始まった。
喧嘩の中から情報を拾い上げると、ラッコのリーダーは概ねビーバー獣人の言うことに納得したらしい。
昨日聞かされた愚痴と、行方不明になった人たちの証言から、利用する側とされる側という支配構造が見えてきたという。
いろいろな意見が出るが、片方を立てれば片方に不利益が出る。
「会話ができるモンスターだったから、供物をもらえば大人しくすると約束したと伝えたらどうですか?」
遠くの異国のおとぎ話に、大蛇に大人しくしてもらう話があったんだよな。それの供物は人間だったけど。
「亡くなったことにしたい人たちから、身につけていた物をもらって、村長に遺品として渡せばいいにゃ」
サァラが案を出す。
「じゃあ、鎮魂のために半年に一度お供えするってことでいいか」
ラッコのリーダーがまとめようとしたら、ビーバー獣人が待ったをかけた。
「一月に一度にして欲しい。布とか、農機具とか、生活に役に立つ物も……」
「調子に乗るな。そんな要求したら、生きてるんじゃないかって怪しまれるぞ」
ゴリラ獣人にたしなめられて、ビーバー獣人は「そうですね」と、しゅんとなった。
「ところで、それは何です?」
オンが、ビーバー獣人が持っている細長い布を指差した。
「ああ、これですか。ちょっと見ていてください」
そう言って布を広げた。筒状になったいて、そこに息を吹き入れ始める。微かに膨らむが、息を吸っている間に萎んでしまう。
ビーバー獣人は額に汗を浮かべて必死に息を吹き続けているけれど、何をしたいのかわからない。
「……風の魔法で手伝ってやってくれ」
「リーダー。そういうことは、早く言ってくださいよ」
風の魔法使いが腰を上げた。
オンが「あたしも風魔法が使えます」と手を挙げたが、「またの機会に」と却下された。
細長い布は風魔法で作られた空気で膨らみ始める。最終的にはパンパンに膨らみ、首長竜の首のようになった。
「これで、モンスターのせいだと思ってもらえるかなって」
ビーバー獣人は拳で額の汗を拭い、輝くような笑顔を見せた。
「まったく、人騒がせな奴め! ところで、空気が布から漏れないのは、どういう仕組みだ?」
「それは蝋引きしてあって……」
二人は頭を寄せて、話し始めた。この二人、実は仲がいいんじゃないか?
「ほのぼのした、平和な光景ねぇ」
と、誰かが呟いた。
ちなみに、隠れ住んでいるのは、数十年前に流行病で人がいなくなった村だそうだ。
病気になる恐れよりも、使い潰される生活から逃げる方を優先したって……それくらい切羽詰まっていたんだな。働き者ばかりなので、人数が少なくても快適に暮らせているらしい。
捜索を中止させるため、霧が立って視界が悪い日に作り物のシルエットを見せていたそうだ。よく考えたものだと感心する。
モンスターじゃなくて、人間同士の問題だったとはなぁ……。
なんとも、人騒がせな依頼だった。




