池の底
その日の午後、オンの大規模魔法を実施することになった。
サァラが足の速いチーム、ルナがモンスターがいたら攻撃するチーム、そして俺は――オンの横でサポートする係。
……なんでだよ。
戦力外と言われている訳じゃない。適材適所で、オンが無茶苦茶なことをしないように見張るのは重要任務だ。
わかっている。だけど、俺は冒険者なんだ――とちょっと叫びたくなった。
ルナはそれに気付いたのか、背中をポンと叩かれた。
馬車などの見張りに一人残して、みんなで池に向かった。
オンが小声で魔法を詠唱する。
ん? 凍らせるって言っていたけど、氷魔法と違わないか? 魔塔にいた氷の魔法使いは、徐々に周囲の温度を下げていたのに、すぐ側にいても寒くならないぞ。
「次、火魔法行きます」
オンがそう告げると、足の速いチームがいつでも駆け出せるような姿勢になった。
大きな火の球が空中に出現し、ゆっくりと池に降りていく。
じゅわっという音を立て、池の底が露出した。
デッドフロッグのときはピチピチ跳ねたり、敵意を向けてくるモンスターがいたが、今回は動くものがいない。凍らせて生命活動を停止するって、すごいな。
水草も枯れていない。
サァラたちが駆け出した。朽ちかけた太い枝や、本来は浮いているはずの浮き草に足を取られるものもいる。
「底はデコボコしているから、へこみに気をつけろ!」
ラッコのリーダーが声を張り上げた。
そういえば枯れ枝が集まっていたところは、どうなっているんだろう。水がそこから別の場所に吸い出される穴があるのかもしれない。
そう思って眺めていると、枯れ枝が山のようになっている。
ん?
なんか変だぞ。流されたものが溜まっているというより、集めて固めている感じがする。一見、無造作に思えるけど、しっかり組んであるような……?
「そこにいるのはわかっているんにゃ」
サァラが枯れ枝に向かって声をかけている。
「おめぇら、ひどいことすんな!」
枯れ枝の山の中から、獣人が出てきた。
「あ、ビーバー野郎か」
ラッコのリーダーはそう言うなり、ビーバー獣人を目指して走り出した。足の速いチームに比べると、ポテポテ可愛い走りだ。
攻撃チームの面々が戸惑っている。ラッコのリーダーを追うべきか、岸で指示を待つべきか。
「リーダーを追う?」
「モンスターじゃないし……モンスターの出現に備えて待機?」
「でも、モンスターらしきものは見当たらないねぇ」
攻撃チームは岸辺の三カ所に分かれて配置されいる。俺たちの近くにいるチームは、ラッコのリーダーからの指示を待つことにしたようだ。
ラッコのリーダーとビーバー獣人が、口げんかを始めた。距離があるので、何を言っているかまでは聞き取れない。
フォンがいたら、盗聴魔法で教えてくれるんだけどなぁ。
「水はいつ戻せばいいんだよ」
俺は氷漬けの生き物たちが気にかかる。不自然な状態であることに変わりないので、一刻でも早く元に戻してやるべきなんじゃないかと思うのだ。
「今、すぐ戻しましょうか?」
「それをやるとみんな溺れるからやめて」
「ふふ、はーい」
オンがなにやら楽しそうにしている。相変わらず、発言が物騒だけどな。
ラッコのリーダーとビーバー獣人が取っ組み合いの喧嘩を始めた。見かけが似ているので、もつれ合うと見分けが付かない。
見かねたゴリラの獣人が割って入り、二人の首根っこを掴んで岸に上がった。
念のために、他に怪しいところや生物がいないか足の速いチームが確認して回る。
ビーバー獣人以外は見当たらない。行方不明になった人たちも見つからない。
ゴリラ獣人の判断で、池の調査は終了ということになった。
「じゃあ、水を戻しますね」
オンが巨大な水の珠を出して、池はあっという間に元通りになった。
おお、と自然に皆から感嘆の声が出た。
――喧嘩中の二名を除いて。




