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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十五章 王都の冒険者

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池の底

 その日の午後、オンの大規模魔法を実施することになった。


 サァラが足の速いチーム、ルナがモンスターがいたら攻撃するチーム、そして俺は――オンの横でサポートする係。

 ……なんでだよ。


 戦力外と言われている訳じゃない。適材適所で、オンが無茶苦茶なことをしないように見張るのは重要任務だ。

 わかっている。だけど、俺は冒険者なんだ――とちょっと叫びたくなった。


 ルナはそれに気付いたのか、背中をポンと叩かれた。



 馬車などの見張りに一人残して、みんなで池に向かった。


 オンが小声で魔法を詠唱する。

 ん? 凍らせるって言っていたけど、氷魔法と違わないか? 魔塔にいた氷の魔法使いは、徐々に周囲の温度を下げていたのに、すぐ側にいても寒くならないぞ。


「次、火魔法行きます」

 オンがそう告げると、足の速いチームがいつでも駆け出せるような姿勢になった。


 大きな火の球が空中に出現し、ゆっくりと池に降りていく。

 じゅわっという音を立て、池の底が露出した。


 デッドフロッグのときはピチピチ跳ねたり、敵意を向けてくるモンスターがいたが、今回は動くものがいない。凍らせて生命活動を停止するって、すごいな。

 水草も枯れていない。


 サァラたちが駆け出した。朽ちかけた太い枝や、本来は浮いているはずの浮き草に足を取られるものもいる。

「底はデコボコしているから、へこみに気をつけろ!」

 ラッコのリーダーが声を張り上げた。


 そういえば枯れ枝が集まっていたところは、どうなっているんだろう。水がそこから別の場所に吸い出される穴があるのかもしれない。


 そう思って眺めていると、枯れ枝が山のようになっている。

 ん?

 なんか変だぞ。流されたものが溜まっているというより、集めて固めている感じがする。一見、無造作に思えるけど、しっかり組んであるような……?



「そこにいるのはわかっているんにゃ」

 サァラが枯れ枝に向かって声をかけている。


「おめぇら、ひどいことすんな!」

 枯れ枝の山の中から、獣人が出てきた。


「あ、ビーバー野郎か」

 ラッコのリーダーはそう言うなり、ビーバー獣人を目指して走り出した。足の速いチームに比べると、ポテポテ可愛い走りだ。


 攻撃チームの面々が戸惑っている。ラッコのリーダーを追うべきか、岸で指示を待つべきか。

「リーダーを追う?」

「モンスターじゃないし……モンスターの出現に備えて待機?」

「でも、モンスターらしきものは見当たらないねぇ」


 攻撃チームは岸辺の三カ所に分かれて配置されいる。俺たちの近くにいるチームは、ラッコのリーダーからの指示を待つことにしたようだ。


 ラッコのリーダーとビーバー獣人が、口げんかを始めた。距離があるので、何を言っているかまでは聞き取れない。

 フォンがいたら、盗聴魔法で教えてくれるんだけどなぁ。


「水はいつ戻せばいいんだよ」

 俺は氷漬けの生き物たちが気にかかる。不自然な状態であることに変わりないので、一刻でも早く元に戻してやるべきなんじゃないかと思うのだ。


「今、すぐ戻しましょうか?」

「それをやるとみんな溺れるからやめて」

「ふふ、はーい」

 オンがなにやら楽しそうにしている。相変わらず、発言が物騒だけどな。



 ラッコのリーダーとビーバー獣人が取っ組み合いの喧嘩を始めた。見かけが似ているので、もつれ合うと見分けが付かない。

 見かねたゴリラの獣人が割って入り、二人の首根っこを掴んで岸に上がった。


 念のために、他に怪しいところや生物がいないか足の速いチームが確認して回る。

 ビーバー獣人以外は見当たらない。行方不明になった人たちも見つからない。


 ゴリラ獣人の判断で、池の調査は終了ということになった。


「じゃあ、水を戻しますね」

 オンが巨大な水の珠を出して、池はあっという間に元通りになった。


 おお、と自然に皆から感嘆の声が出た。

 ――喧嘩中の二名を除いて。


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