待機
モンスターの正体がわからないと、戦う方法を考えるのが難しい。
「オンはこの池の水を一瞬で蒸発させて、すぐに水を戻すことはできるか?」
「できますけど、火魔法で蒸発させたら普通の魚は死ぬかもしれません」
そんなことが可能なのかと、俺たち以外のメンバーがざわめく。
「そっか。以前デッドフロッグを討伐したときは、モンスターだらけの沼だったんだっけ」
できるということをさりげなく伝えた。
「この池は漁場として使われているから、死なせるくらいなら原因がわからなくていいと言われそうだ」
ラッコのリーダーがまっとうな意見を述べる。
「……氷漬けのような状態にしたら、少しはマシかもしれません」
「そんなことまでできるの?」
ルナが感嘆の声を上げた。
「それに近い状態にできるだけですよ」
「干上がった池の中からモンスターらしきものを探して、速攻で確保する。その場合は足の速い者と腕力のある者があたるとか?」
「村長にそれでいいか相談してみるか」
「小舟が燃えたら大変だしね」
「明日、村長と話し合う。今日はお疲れさん。夕飯の当番は、飯ができたら皆に声をかけてくれ」
その後の過ごし方は、様々だった。
酒を飲み始める人もいたし、料理当番はとても大胆な味付けをしていた。見ているとハラハラして手を出したくなるので、短刀の手入れをすることにした。
食事も終わり、寝る準備をしていたら、オンが俺たちのテントに近づいてきた。
「四人分が標準装備なのでしょう? 一人空きがあるのですから、あたしがそこに収まるのが合理的だと思うのですが?」
サァラの毛並みがざわっと立った。
「悪いが、デリカシーのない発言だと思うぞ」
俺は代表してオンに返事をした。フォンがいないからといって、安易にそこに人を入れたくない。
「……そうですか? つまり断られたのでしょうか」
オンはこういう機微がわからないのか。
「すまないけど、そういうことだ」
「……はい。わかりました」
オンは理解していないようだが、とりあえず受け入れてくれた。馬車の方に歩いて行くので、そちらで寝るのだろう。
「あれ、悪気がないと思う?」
ルナがオンの後ろ姿を見つめながら、ぽつりとこぼした。
「鼠獣人のミナスとはまた違ったタイプだけど、なんかこう……胸がザワっとするよな」
魔族は価値観がかけ離れているから、どう対処したらいいかわからない。
サァラはフーフー毛を逆立てたままだった。俺とルナはサァラを真ん中にして、抱きつくようにして眠った。
翌日は、ラッコのリーダーと村長の話し合いがつくまで、特にすることがない。
待機するように言われて、俺たちは池の畔に行くことにした。俺は木に登って、水面を眺める。何か手がかりはないだろうか。
一組の夫婦が小舟を出して、漁を始めた。
「あれ、危ないんじゃない?」
木の下で素振りをしていたルナが心配そうな声を出した。
「なんかね……このまま漁をやめたら飢え死にするから、危険でも漁に出た方がマシなんだって」
サァラがそう説明した。
「そっか。蓄えがなければ、そうなるよな」
覚悟の上なら、眺めているしかない。
ドスンと木が揺れた。慌てて幹に抱きつく。
下を見たら、サァラが木の幹に手のひらを当てていた。
「びっくりした?」
「びっくりしたよ。何するんだ」
「へへ。組み手をしようよ」
「いや、あの小舟を観察していた方がいいんじゃないか?」
「あ、そうだにゃ。何かあったら助けに行かなきゃだ」
サァラが拳を握って、ファイティングポーズをとった。
「それなら、あたしも池に向かって素振りするかな」
ぱしゃり。
微かに水音がした気がする。
池には漁をする夫婦がいるのだから、それくらいの音は当たり前か。




