言葉遣い
国は宗教団体と対決するつもりはないようだ。妖精の国との関係も絡んでくる状態で、やぶ蛇になることを恐れているような気がする。
まあ、個人的に関係してこなければ、こちらから関わろうとは思わない。つまり、フォンを妖精族に渡そうとしなければ……ということだけど。
それに貴族のエリオットは、相手に気付かれないように罠を張っていた。あれを思い出すと、王侯貴族が水面下で動いていても庶民の俺には知る術がない。
それから、俺の誘拐と、クランハウスの襲撃は別件として扱われているらしい。犯罪を主導していた派閥が違うので、事件を担当する人も別になるそうだ。
ただの誘拐事件と、王都を揺るがす可能性では、規模が違うもんな。
オンが助けに来てくれなかったら、王都の護衛兵士たちがどれくらい俺一人のために動いてくれたか怪しい気がしてきた。
クリムもミナスも、誘拐犯として兵士に差し出したらしい。クランとしては、俺の保護ができたし、再犯がなければいいということだ。
オンが医務室に顔を出した。
「助けに来てくれてありがとう」
あの日のお礼を改めて口にする。
オンは満面の笑みを浮かべた。
「うん。助け出せて良かったです。体は大丈夫ですか?」
「使われた薬がよくわからないから、安静にしているしかないんだ。
傷とか打撲はポーションを使わないで、自然治癒を目指してる。体内に残る薬と変な反応が怖いからってさ」
クリムは手当たり次第にいろいろなことを画策していて、後ろ暗い連中の手を借りることも多かったらしい。
薬の出所も、クリム自身よく覚えていないそうだ。
「クリム、生きてたんだな」
すごい悲鳴を上げていたけど。
「やり過ぎだと怒られてしまいました。ポーションをぶっかけて、一命を取り留めたのです」
オンがしゅんとして答えた。
「そ、そうか……」
このクランに来た時は皿やフォークを壊しまくったというから、すごい腕力を隠し持っているのだろう。助けてくれて感謝しなくちゃという一方で、ちょっと怖いという思いが消えなくなっている。
「あの、もう少しでぬいぐるみの券が取り出せそうです」
ニコニコと褒められ待ちの顔をしている。
「そっか、頑張ったな。
ぬいぐるみを買える順番が回ってくるより、オンが魔法を制御できる方が早いのか。
でも、三属性すべて上手くいってるのか?」
「いえ……風魔法なら、なんとかという状況ですね。火魔法は全然です」
「一つでもできたら、討伐依頼に同行してみてもいいんじゃないかな。現場を知った方が、イメージが湧いて上達が早いことがあるかもしれない」
「それは、いいですね! トーマが復帰したら、ぜひ」
「いやいや。俺はCランクだから、オンはAランクのパーティーとかに混ぜてもらえよ。
ぬいぐるみの出資者は高ランクの人ばかりだから、当然、そっちが優先だろ」
「そうですか。……そうですね」
シュンとなるオン。
ふと、オンもクリムも丁寧な言葉遣いだなと思った。
あれ? 丁寧な言葉遣いって、穏やかに見える効果がある……。
クリムの豹変ぶりが脳裏に浮かんだ。
ぞっと肌が粟立つ。ある意味、擬態じゃないか、これ?
いや、強力な魔族が、こちらの社会に溶け込もうとする努力の一環だ。少なくとも、オンは悪いことをしようとはしていない。……していないよな?




