説得
気持ち悪い。なんだこいつ。
だが、一ついいことを聞いた。
「それなら、フォンは関係ないだろ?」
俺が狙いなら、フォンは襲われていないと考えていいのか? だが、あのとき、クランハウスの階下から戦っているような音がしていた。
「ああ、あれは別の司冠の管轄です。
教団に対して反対運動をしている者たちを殺害するなんて、浅はかですね。それに、実行部隊に『子どもは可哀想だから見逃そう』などという甘い人間を選んだのも、采配ミスです」
クリムは口元の泡を服の裾で拭った。
「その後で、『被害者の遺児が信者になったら、世間の印象が逆に良くなる』と作戦変更したらしいですよ。
親の影響なのか理屈っぽく、素直に教えに馴染まない。それで洗脳の魔導具を身につけさせたが、それもうまくいかない。
『もう、消してしまえ』という意見もちらほら……」
「なんて勝手な……」
「理不尽だと思いますか? この世は不平等、理不尽だらけだ。
踏みにじられたくなければ、その前に……より大きな力で踏みにじるしかない。
そうです。力があるから、勝手な振る舞いも許される。
ね? こちら側にいらっしゃい。
そうして、妖精族の女性をあなたの部下にして囲ってしまえばいい。命の危険からすくい上げたあなたは、彼女にとって『英雄』ですよ」
あまりの言い草に呆れてしまい、言い返す言葉も出てこない。
身勝手な理屈。他者を踏みにじって笑う醜悪さ。
それに「英雄」という言葉をなんと軽薄に使うのか。バスラやアーデンのことすら、侮辱している。
「あなたたちは妖精族の魔導具師を狙っていたのですよね? この拠点に妖精族はいないのです。ですから助けが来ることは、期待しない方がいいですよ。
あなたがうなずくまで、食事は運ばせません。早く承諾した方がいいと思います」
クリムが立ち上がろうと前傾姿勢になった。
俺は布団を跳ね上げ、足首に繋がれている鎖をクリムの首に巻き付けようとした。
いや、巻き付けようとして、角に阻まれた!
そのまま手で鎖を引っ張ると、クリムはベッドに倒れ込む。鎖が細いから、手の皮がすり切れて血が滲む。
「なかなかふざけたことをしてくれますね」
ベッドに片手をつきながら、クリムが顔を上げる。
「俺を解放しろ! でなければ、角をこのまま折るぞ」
鎖が角からすっぽ抜けないよう、持ち手の角度に気をつけなければ。
あばら骨がずきんと痛み、うめき声を上げそうになった。
「人族の――それも戦闘向きではないスキルの持ち主の力など、こんなものですか」
クリムは抵抗しないまま、俺の目を見上げた。なんだ、この余裕は。
こっちは額に脂汗が滲んでいるんだぞ。
悔しい。だが、これが俺の全力なのは、事実だ。
「ぶもおぉおぉ-!」
クリムが鳴く。その口を塞ぐ余裕はなかった。
鼠獣人のミナスが走り込んできて、俺の手元を狙って投げ矢を投げる。
「あんた、副司冠さまに何してんのよ!」




