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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十五章 王都の冒険者

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弱さと誘惑

「あのミナスだってそうです。戦闘能力は高いのに、少しばかり人の機微に疎いというだけで、弾かれてしまう。

 弱い者たちに合わせた規制で、活躍の場を与えない? そんなのは社会の損失でしょう」


「俺はミナスより……強くないぞ」

 弱いとは言いたくない。


「そう、そこです! そこなのです」

 牛の獣人クリムは、手のひらをパチリと合わせた。手は蹄じゃないらしい。


「社会から弾かれる弱者は、一芸に秀で過ぎている者ばかりではありません。

 いや、特筆すべきものがない凡庸な者が大半です。自己評価が異様に高く、現実を受け入れられない者、諦めの悪い者……その受け皿は、この教団にしてもなかなか難しい」

 手の平をすり合わせ、俺の目をじーっとのぞき込んでくる。言っている内容もひどい。

 お前こそ、目指した地位から転落した、無謀な高望みをする一人なんじゃないのか?


「そこで、あなたの登場です」

 パッと両手の平を俺に向けてくる。表情がくるくる変わるのが、情緒不安定な証拠に思えて、背中がひやりとする。


「雑魚スキルにへこたれず活躍するあなたは、希望の星なのです」


 おい。褒めてねぇだろ!


「それから『スキル』というものに懐疑的な人々も、あなたに興味を持っています。

『スキルという謎の存在に振り回されるな。人生の舵は我にあり』、いいと思いませんか。それを新たに掲げ、私はあなたの参謀になりましょう。

 あなたなら司冠になれます。あなたに自分を重ね、夢を見る人は大勢いるはずです。質より量。大勢の信者を集めたら、大司冠の可能性だって出てきますよ」


 それからも演説は続いた。

 雑魚スキルで成り上がり、祖国の腐敗を摘発し、国王と謁見するまでになった。

 Cランクなのに、英雄バスラやアーデンと気安く交流している。

 既存の知識を組み合わせただけで一大ブームを作れるのも、平凡な人たちに「自分だって」と夢を持たせる。


 実にくだらない。

 俺の反応が悪いことに気付いたらしい。


「ああ、申し訳ありません。こちらのメリットばかり説明してしまいましたね。

 もちろん、トーマ殿にだって損はありませんよ」

 ニヤニヤと嫌な笑い……典型的なスケベジジイの顔になった。


「女性信者を抱き放題ですよ。ずらりと並べて、その日の気分で」

「……間に合ってます」

 というか、初対面で無防備な接触をするとか、馬鹿じゃねぇの。信用できない奴の手料理食うより、危ないわ。嫌がる女を抱いて平気な精神とか、権力者なら抱かれてもいいいう考え方とか、そっちもヤバイだろ。


「唸るほどの富が手に入りますよ」

「Sランクのアーデンさんは、富を使いこなせなかった。クランを維持しなきゃという重圧からか、ツンケンしていた。それで壊れた人間関係もある。

 富を手放した現在、充分幸せそうだ。生活できて、たまにささやかな贅沢ができるくらいでいい」


「みんなが命令を聞いてくれますよ。思うように従わせられるのは、気持ちがいいものです」

「領主の孫の苦労を横で見ていたら、トップになろうと思わない。隣の領主のように、ただ威張って贅沢をしていたら、領地はあっという間に衰退する。

 先を考えない集団は、束の間の栄光しかつかめないぞ」


 俺が反論する度に、雰囲気が悪くなっていく。


「まあ、そこは有能な部下に任せるなり、なんなり方法はあるでしょう。

 より高みを目指さずして、どうするのです? 前進しないのは、ただの怠け者ですよ」

 拳を握って、顔をずいっと近付けてくる。ツバが飛んできそうで、俺は仰け反った。


「……そっちの『幸せ』が薄っぺらすぎて、魅力を感じないだけだ。他人から見て『幸せに見える状態』を作り上げたって、自分が幸せを感じられるかは別の問題なんだぞ」

 ちらりとミナスの顔が浮かんだ。「仲間に囲まれて幸せな私」になりたかったんだろうな、と。


 クリムが目を潤ませた。しまった。つい言い過ぎたかもしれない。


「ああ! これこそ教祖様にも匹敵するような、素晴らしい知見でございます!

 欲望の先にある『真の幸福』。なるほどです。ぜひ、『薄っぺらい幸福』で満足している連中に突きつけて、悔い改めさせてやりましょう。

 大司冠の先、次期教祖も狙える思慮深さではありませんか! ぶもぉぉぉ~」

 口の端に泡をつけ、興奮して牛の獣人は立ち上がった。


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― 新着の感想 ―
話が通じない……! 自分の頭の中でもう決めている、決まっている形に肉付けするために他人の言葉を利用しているだけ……! 結論ありきでAIと会話する様と酷似している……!
 (;゜д゜)この牛、きモォ~ッ!?(どん引き)
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