強ければよい?
ミナスは俺の鼻先に人差し指を突きつけた。
「強ければ、いいんだよ。何をやっても許される。弱い奴らに足を引っ張られたり、説教されたりするのは我慢できない」
そういう考え方なのか。Bランクのお前なら、Cランクの俺たち花猫風月を好きにできると思っていたんだな。
「お前だって、圧倒的な強者じゃないだろう。お前より強い相手になら、何されても我慢するのか」
ミナスが見落としているのは、自分が下になったときのこと。力が全てという社会は、どこか危ういと思う。まず、安心して暮らせない。
「だから、早く上を目指すんでしょ」
「誰かを踏みつけにして、かよ?」
「今まで踏みつけられた分、取り返してやるんだ!」
ミナスの本音はこれか……。
「踏みつけた奴、本人に取り立てに行け。自分より弱い奴にたかろうとするなよ」
本当に強いオンを見ているからこそ、「強ければ幸せ」だなんて思えなくなった。上手く言えないけど、なんか違うんだよ。
開いたままの扉をあえてノックして、新たな獣人が入ってきた。大柄な牛の獣人だ。
「ミナス同志。あなた、意外と役に立ちませんね」
頭の高さが違う。見下ろされると威圧感が半端ない。
「も、申し訳ございません。我々の素晴らしさを説明しておりますので……」
ミナスが急にオロオロしだした。
「はて……逆効果になっているように見えますが。あなたには荷が重かったようですねぇ」
牛の獣人は自分の顎を撫でた。
「理論派の方には感情論ではなく、もっと建設的なお話がよいかもしれませんな」
そう言って、従者に椅子を運ばせ、ベッドのすぐ側に座った。
俺も、ベッドの上で痛む脇腹をかばいながら、背筋を伸ばした。これは怒らせたら駄目なタイプだと直感的に思う。
「ミナス同志、下がりなさい。ここからは私が説得に……」
「それじゃ、あたしの点にならない――」
「上位者の言を遮るでない!」
重低音が部屋の空気をビリビリと震わせた。
「し、失礼致しましたっ」
ミナスはバッと頭を下げ、逃げるように部屋を出て行った。
「さて、私は副司冠を務めているクリムと申します。トーマ殿とは友好的な関係になりたいと思っておりますよ」
人を鎖で繋いでおいて、なにが「友好的」だ。
「正直に申しますと、我々は支配者と被支配者で構成されています」
驚いた。人々を教え導くんじゃなくて、支配するのか?
「ああ、一般の信者には、平等を謳っておりますよ。
トーマ殿には、『支配者側になりませんか』と勧誘をしているわけです」
ニヤリと笑った目が、薄気味悪かった。
「司冠までは、組織に貢献した点数を積み重ねればなれるのです。私も一度はなりました。
ですが、支持者を集めなければあっという間に副司冠へ逆戻りです。私は、自分の限界を悟りました」
クリムは、切なげにため息を吐いた。そして、自分語りを続ける。
「この団体の教えは崇高なものです。ですが、組織としてやっていくためには、信者を集めなければなりません。
時代を超えて、人々の共感を呼ぶものは何か?
それは『社会が悪い』という訴えです!」
クリムは鼻息荒く、自分に酔っているかのように、両手を広げた。




