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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十五章 王都の冒険者

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強ければよい?

 ミナスは俺の鼻先に人差し指を突きつけた。

「強ければ、いいんだよ。何をやっても許される。弱い奴らに足を引っ張られたり、説教されたりするのは我慢できない」


 そういう考え方なのか。Bランクのお前なら、Cランクの俺たち花猫風月を好きにできると思っていたんだな。

「お前だって、圧倒的な強者じゃないだろう。お前より強い相手になら、何されても我慢するのか」

 ミナスが見落としているのは、自分が下になったときのこと。力が全てという社会は、どこか危ういと思う。まず、安心して暮らせない。


「だから、早く上を目指すんでしょ」

「誰かを踏みつけにして、かよ?」

「今まで踏みつけられた分、取り返してやるんだ!」

 ミナスの本音はこれか……。


「踏みつけた奴、本人に取り立てに行け。自分より弱い奴にたかろうとするなよ」

 本当に強いオンを見ているからこそ、「強ければ幸せ」だなんて思えなくなった。上手く言えないけど、なんか違うんだよ。



 開いたままの扉をあえてノックして、新たな獣人が入ってきた。大柄な牛の獣人だ。

「ミナス同志。あなた、意外と役に立ちませんね」

 頭の高さが違う。見下ろされると威圧感が半端ない。

「も、申し訳ございません。我々の素晴らしさを説明しておりますので……」

 ミナスが急にオロオロしだした。


「はて……逆効果になっているように見えますが。あなたには荷が重かったようですねぇ」

 牛の獣人は自分の顎を撫でた。

「理論派の方には感情論ではなく、もっと建設的なお話がよいかもしれませんな」

 そう言って、従者に椅子を運ばせ、ベッドのすぐ側に座った。

 俺も、ベッドの上で痛む脇腹をかばいながら、背筋を伸ばした。これは怒らせたら駄目なタイプだと直感的に思う。


「ミナス同志、下がりなさい。ここからは私が説得に……」

「それじゃ、あたしの点にならない――」

「上位者の言を遮るでない!」

 重低音が部屋の空気をビリビリと震わせた。

「し、失礼致しましたっ」

 ミナスはバッと頭を下げ、逃げるように部屋を出て行った。


「さて、私は副司冠を務めているクリムと申します。トーマ殿とは友好的な関係になりたいと思っておりますよ」

 人を鎖で繋いでおいて、なにが「友好的」だ。


「正直に申しますと、我々は支配者と被支配者で構成されています」

 驚いた。人々を教え導くんじゃなくて、支配するのか?

「ああ、一般の信者には、平等を謳っておりますよ。

 トーマ殿には、『支配者側になりませんか』と勧誘をしているわけです」

 ニヤリと笑った目が、薄気味悪かった。


「司冠までは、組織に貢献した点数を積み重ねればなれるのです。私も一度はなりました。

 ですが、支持者を集めなければあっという間に副司冠へ逆戻りです。私は、自分の限界を悟りました」

 クリムは、切なげにため息を吐いた。そして、自分語りを続ける。

「この団体の教えは崇高なものです。ですが、組織としてやっていくためには、信者を集めなければなりません。

 時代を超えて、人々の共感を呼ぶものは何か?

 それは『社会が悪い』という訴えです!」

 クリムは鼻息荒く、自分に酔っているかのように、両手を広げた。


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― 新着の感想 ―
往々にして「人間に悲劇を産み付ける社会が悪い」と言うが、「そんな社会を必要とする人間のほうが悪い」とも言えてしまうね。
 鎖で繋いでいる時点で利用する気満々じゃん。悪徳貴族と何が違うのか。
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