意外な流れ
目が覚めたとき、俺は上等なベッドに寝ていた。
迎賓館にも似た環境に混乱する。ここはどこだ? 王城? いや、クランに所属して……。
体の痛みが、戦闘の記憶を呼び起こす。
「痛てて」
脇腹というか、あばら骨のあたりが軋む。首も動かしづらい。
俺は襲撃者に捕まった……のか? 少なくとも、ここはクランハウスではなさそうだ。
拘束されるどころか、好待遇というか……。
牢屋で拷問されたいわけではないが、逆に不安ばかりが募る。こっそり部屋を出て偵察すべきか? その前に窓まで歩いて行き、外の景色を確認しよう。
ベッドから降りようとしたら、足首に違和感がある。なんだ?
細い鎖がついている! 足首に直接当たる部分は布が張ってあるが、金属の拘束具だ。
気を失って、捕虜になったんだ。
水の魔法使いは無事だろうか。フォンの繭は? バスラの作戦は成功したんだろうか。
「あ、起きたんだ」
ノックもなしに入ってきたのは鼠獣人のミナスだった。
あのフードを被っていたのは、やはりこいつか。
「ここはどこだ? なんでお前が……」
喉が掠れて、咳き込んだ。
「あーあ、水でも飲みなよ」
枕元に置いてある水差しから、コップに注いで手渡された。素直に飲んでいいものか迷う。
「警戒してんの? 何かするつもりなら、寝てる間にしてるって」
それもそうだ。
水を飲むとほのかに柑橘系の香りがした。
「ここは宗教団体の拠点なのか?」
「異端者たちはそういう無粋な呼び方をするけど――まあ、そうだよ」
ミナスはすっかり信者になっているようだ。
「なんでお前はここにいる? トゥルメル領で会ったときは信者じゃなかったよな」
子どもの信者たちを撃退していたくらいだ。
「ダンジョンを出て、トゥルメルの冒険者ギルドに戻るのもかったるいと思ったんだよね。妙に説教臭くてウザい支部だったから」
俺にとってはありがたい環境だったが、ミナスにとってはそうじゃなかったのか。傍若無人な振る舞いを咎められたのが、気に入らないみたいだったもんな。
「でさ、他の領に行ったら、親切にしてくれるいい人たちだなって、誤解が解けて。家族みたいに暖かく受け入れてくれるんだよ」
幸せそうにミナスが微笑む。
「――へえ、それで?」
「トーマも仲間に入れてあげるよ」
はあ?
「トーマは弱っちいけど、見込みがあるって副司冠様がおっしゃっててさ」
「俺が? なんで?」
「詳しいことは聞いてないよ。後で説明してくださるんじゃない? あ、大司冠様が気に入るかもって言ってたっけ?」
そう言われても、それこそ「知らんわ」としか答えられない。
そういえば、ミナスは敬語が使えるのかと、妙なことに気がついた。宗教団体の幹部限定かもしれないが。
「ちょっと待ってくれ。そいつらがフォンを狙ってるんだろ?」
「ん? ああ、違うよ。それは妖精族の司冠たち。あたしは獣人の大司冠様に目をかけていただいててさ。
力の弱い人族の王様が、獣人を押さえつけてるなんておかしいでしょ」
ミナスは俺が宗教団体について詳しくないということを気にせず、好き勝手にしゃべっていく。
「クランを襲ったのは、フォンを攫うためじゃないのか?」
俺が襲撃のターゲットになっていたのは驚いたが、それならフォンは狙われていないのか?
「攫うために動いていた人もいたと思うけど。あたしはトーマの身柄確保の指令を受けてたからね」
「フォンは無事なのか?」
重要なのは、そこだ。前のめりになったとき、足の鎖がチャリッと音を立てた。
「知らないったら。あんなツンケンした女、どうでもいいし」
ミナスが頬を膨らまして、ぷいっとそっぽを向く。
サァラがやったら可愛いと思うのに、イラッとするのはなんでだろう。




