襲撃
ついさっきまで話していた男の体が硬直している? 目を見開いて……。
「どうした?!」
肩に手を触れたら、そのまま横に傾いて――?
攻撃された? だが、何の気配も……。
「おっと。音を立てられたら困るんだけど」
倒れかけた男の体を、突然現れた人物が支えた。
どこから湧いた? 腰から短剣を抜いて右手で構える。
奇妙なマスクにフードを被っているせいで、顔が見えない。だが、どこか聞き覚えのある声だ。
襲撃を知らせる笛をポケットから出そうとしたら、左手に痛みが走った。
「応援を呼ぶなんて、無粋だね」
手の甲に血が滲む。小さな投げ矢が床に転がっている。フードの人物が投げたようだ。
「そいつを放せ」
声が震えてしまう。それに気付いた襲撃者の口元が嫌らしく吊り上がった。
床からドンと衝撃が来た。階下でも何か起きているのか。
フォンの繭がある部屋の前にはルナが、部屋の中にはサァラとAランク冒険者が一人いる。
大丈夫だ。大丈夫なはずだ。
フードの人物が、硬直した男を床に置いた。ピクピクと嫌な感じのけいれんをしている。
接近されたのも、どんな攻撃をされたのかもわからなかった。
勝負になるのか?
嫌な予感が背中を走る。怯えるな、震えるな。そんな状態になれば不利になるだけだ。
弱気になるな。自分の身を守ればいいというだけじゃない。こいつを倒して、フォンを守らなければいけないんだぞ。
フードの下のケープ部分が、もぞもぞと動いた。くそ。何をしようとしているか見えない。
ケープのスリットから手がちらりと見えた。投げ矢か!
短剣でたたき落とす。カツッと気持ちいい音がした。
「反応は速くなった」
なぜか嬉しそうに言う。こいつ、女か?
小柄で柔軟に動かれたら、室内だとかなり厄介だ。だが、俺の短剣も、室内で有利だけど。
もう一つ投げ矢が、俺の顔めがけて飛んできた。
腕を跳ね上げるようにして、短剣で弾く。
空いた俺の胴に蹴りが入った。体が、くの字に曲がる。
腕が下がる動きに力を込め、相手の足を切りつけた。ざくっと手応えがあり、血が飛び散る。
だが、浅い。
「痛いなぁ。なにすんのよ」
俺の足元を狙った低い蹴りが来た。回避しようと片足を上げた瞬間、窓が割れる音がした。
入ってきた人物に首を取られる。背後に回られていて、顔が見えない。
「同志よ。なにを遊んでいるのだ」
俺の首を押さえたまま、新手の人物はフードの女を叱りつけた。
「はいはい。すんませんね」
会話の隙に、背後の人物の脇腹に短剣を突き立てた。ガツンという手応え。防御の何かを着込んでいるのか。
だが、「うおっ」と声がして手が緩んだ。
あまり力を込められなかったが、反撃の隙はできた。
その場でしゃがみながら、背後の人物に足払いをかける。
そいつはたたらを踏みながらも持ちこたえ、床に転がったままの水の魔法使いを踏みつけた。
あ! 何をしやがる。
俺が足払いをかけた角度で、そっちに行ったのか。ごめん!
そんな後悔をしている余裕なんかなかった。
首元にチクリと痛みが走る。まずい。毒か?
視界がぐにゃりと歪んだ。崩れそうな俺の腕を、大きなごつい手が掴む。さっき窓から入ってきた男に、また捕まったのか。
「動きは良くなったけど、相変わらず甘ちゃんだね」
なんだと? この女、俺を知っている?
あれ、この声は……。
指先の感覚がなくなっていく。意識が遠のく。駄目だ。目を閉じるな。
くそ。




