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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十五章 王都の冒険者

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肩慣らし

 ルナは俺の隣にすとんと座った。

「う~ん、本調子ではないだろうけど。体を動かした方が、調子を取り戻せるかもしれないじゃん?

 このクランが襲撃されたときに、自分の身くらいは守れた方がいいしさ。

 それはあたしにも言えることだから、午後、訓練場に行ってくるよ」

 ルナが指を組んで前に伸ばし、ストレッチのような動きをした。

「じゃあ、俺も行こうかな」

 確かに、体がなまって足手まといになるなんて、絶対に嫌だ。


「そういえば、作戦会議はいいの?」

「今日は呼ばれてないよ。上位ランクの人たちって、ちょいちょい怖い発言するんだ。積極的に参加したくはない」

 力のある人たちと一緒にいると、自分が弱く平凡な人間だと思い知らされる。スキルが判明してから、生まれた村を出るまでの居心地の悪さと、重なってしまう。


「フォンが早く目覚めるといいよね」

「……そしたら、トゥルメル領に戻るか」

 俺たちはフォンが目覚めた後のことを曖昧にしていた。

 妖精族からの干渉から逃れるために、このクランを利用させてもらった。恩返しをしなければという思いもあり、「問題が解決したら脱退する」とは言いづらいところがあった。


「そうだね。王都は賑やかで刺激的だけど、ちょっと疲れる」

「……だな。俺にとってはトゥルメルも充分都会だけど」

「はは、一体どんなとこで育ったの」

 軽く眉を寄せて、ルナが力なく笑う。


 時計が珍しく、新聞は数ヶ月おき。のんびりしていて変化を好まず、人間関係が濃密だった。中にいれば心強く、はじき出されたらなかなか辛いものがある。

 ……そう考えると、戻るという選択肢はないな。



 昼食のときに、数日ぶりにサァラの顔を見た。

 どんよりと思い詰めたような表情と、取り繕ったような笑顔が交互に現れる。なんか、サァラに出会った頃の自分を思い出した。

 あのときサァラは傷の手当てをしてくれて、一緒に食事をして、たわいない会話をして……つまり普段通りにするのが一番かな。



 俺たちが冒険者ギルドに行くとクランの職員に申告すると、デッドフロッグ討伐のときの風の魔法使いが護衛についた。

「オンは風の魔法制御がかなり上手くなって、今日は水の魔法を訓練しているんだ」

「へえ。ぬいぐるみの引換券の『風』を、無事に取り出すことができたんですか?」

「あと何回かしたら、できそうってところかな」

 俺たちはそんな会話をしていたが、サァラは無言で歩き続ける。ルナも黙って、サァラと手を繋いでいた。



 その日のサァラの気迫は凄まじかった。

「あたいは負けない。強くなる」

 そんな言葉をつぶやきながら、訓練用の人形を殴る、蹴る……。目が血走っているようで、とても危うい感じがする。


 ゴスっと妙に乾いた音がした。グローブの革と綿が出す、パアンという小気味よい音じゃない。

「待て、サァラ! 拳を痛める!」

 言葉が耳に入っていないようなので、羽交い締めして止めるしかない。獣人に人間の俺が敵うか、とちらっと不安になったが、考えている暇はなかった。

 羽交い締めしようと背後に回ったら、殴られた。いや、違う。サァラは背後の気配を察知して、反射的に、裏拳を繰り出しただけだ。

 鼻に当たって鼻血が出る。痛みで声も出せない。


「ごめん! ごめん、トーマ。ごめんにゃ~」

 サァラが我に返って、泣き始めた。少なくとも、サァラを止めるという目的は果たせたんだ。サァラに文句は言わないさ。

 しばらく立ち上がれそうもないけど。鼻が折れてないといいな……。

 ルナは動けない俺を抱きかかえて、訓練場の隅に移動する。ちょっと、待て。お姫様だっこはやめろ。

 クランでいい筋トレを教えてもらった成果で、ルナの腕の力がすごいことになってる。まだ担がれた方がマシだ~!


 隣の魔法用の訓練場にはオンがいて、こちらの動向を察知していることなど――俺たちは考えもしなかった。


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