王都の新聞
「バスラさんが抗議文を叩きつけたという記事は、どんな感じに書かれてました?」
俺は、談話室で新聞を読んでいたリロイに声をかけた。驚くことに、王都では毎日新聞が発行される。田舎とは段違いだ。
「載ってないみたいだよ」
リロイが新聞から顔を上げる。
「はは、地味な話だからな」
別の冒険者が飲み物を片手に移動してきた。
「確かに注目を集めるような話題ではないですけど……無駄足でしたか」
わざわざクランの制服まで着て行ったのに。のぞき込むと、人気役者の結婚式の様子が大きく載っていた。
「そうとも限らないぞ。後で、宗教団体をやっつけたときには記事が載るだろ? そのときに『事前に抗議していた』って書かれたら、それで充分だ」
腕力頼りっぽく見える冒険者が、頭脳派のような発言をする。意外と言ったら失礼だろうけど、バスラを筆頭に根回しがすごいな。
「なるほど。ネタをこちらから提供しておけば、間違った記事を書かれる可能性が減ると……」
「そういうことだ。飲み込みが早いな」
その冒険者はぐいっとカップを傾けた。
「さてと。俺は冒険者ギルドでハルバードの調整をしてくるかな。リロイ、俺は相棒をぶん回せる現場を期待しているぞ」
「それは岩モグラがいいってことか?」
「人間相手より、豪快にいきたいね」
「頭の片隅に置いておくよ」
よろしくと手を振って冒険者は談話室を出て行った。
「宗教団体の拠点か岩モグラ討伐か、選べるんですか?」
今の会話から推測できることを尋ねた。俺たちCランクの冒険者は、このクランの守備を担当するため、作戦の詳細は知らされていないのだ。
「選べないよ。ただの希望だ。
これから作戦を詰めるから、誰がどれを担当するかも決まってない」
リロイが楽しそうに口角を上げた。
「ああ、気をつけないと、人を駒として作戦を立てるように英才教育を受けてきたのが出てしまうな。目的を達成するために、何人までなら損耗しても大丈夫かなんて……鬼畜の考え方だろう?」
リロイは俺が賛同するか、拒絶するか試しているようだ。
「できるだけ、怪我しないよう……亡くなる人がいないような計画にしてほしいです」
「そうだよねぇ。『命の価値は平等』なんだって、忘れないようにしないと。教祖を守るために死ぬのが最高の栄誉とか、おかしいよね。
教団から逃げても市井に紛れ込めなくて、冒険者の中ならまあまあ居場所があるって感じなのさ」
俺は、この人のことをあまり知らないのだと思い知る。理性的な人に見えたが、根元の価値観が違う。それを知識で矯正して、『普通』に暮らそうと努力しているんだ。
「バスラさんは、僕のこういうところも受け止めてくれたんだけどなぁ」
とボソッと残念そうに言って、リロイは談話室を出て行った。
俺はお眼鏡に適わなかったらしい。いや、あんな思考を受け止められるほど、俺の器は大きくないぞ。
フォンは宗教関係者に育てられたはずなのに、まともだよな?
人が少なくなった談話室で新聞に目を通していると、ルナが顔を出した。
「サァラが、午後は冒険者ギルドで体を動かして肩慣らしをしたいって。トーマも一緒に来る?」
「え? もう起き上がって大丈夫なのか?」




