帰り道
話し合いが終わり、俺たちは馬車を停めた場所まで歩いて行った。貴族と一緒だと建物の入り口で馬車が回されるのを待つが、はっきり言ってこっちの方が気楽だ。
バスラは馬車に乗るとき、羽をぶつけないよう慎重に動く。先ほどの迫力とのギャップで、なんだか可愛いと思えてしまった。
「まあ、話が早くて助かったな」
バスラは襟元を緩めながら言った。
「私の出番がありませんでしたな」
法務担当がおどけたように、肩をすくめる。
「妖精国との外交がどうとか、宗教の自由を制限するにはとか、言い出さなくてよかったじゃないか」
俺はてっきり、そういう問題を話し合うんだと思っていた。だから、宰相も宰相補佐も出てこない時点で驚いたんだけど。
俺の顔を見て、何を考えているのかバスラは察したらしい。
「そんな大きな問題に、積極的に関わるつもりはないぞ」
そっか。俺はなし崩し的に巻き込まれてきたけど、普通の冒険者ならそういうものか。
「国は、国としてまとまるのが仕事だ。特別な存在でもなければ、一個人のために動かないと思っておけ。
フォンのこともそうだ。トーマにとっては特別な存在でも、国から見ればただの一個人にすぎない。
しかも、代々続く国民ではない。妖精族という外交が盛んではない種族の、移民の一人だ」
え……そうか? 言われてみれば、そうかも……? かなりショックなんだが。
「『国家商売』の基本として、割の合わないことには手を出さない。
美談として売れるなら別だが、裏ではびこる宗教団体をつついてやぶ蛇になりたくはない。問題解決に失敗したら、責任を取るのはつついた人間だ」
バスラはあまり知りたくない一面を教えてくれる。
「これで、警備兵長官が正義感に燃えた男なら話が違ったと思いますよ。だが、今のあの男は冒険者嫌いで有名です。我々を、治安を乱しかねない不穏分子だと思っているらしいのです」
法務担当は、深酒をして暴れる冒険者も悪いのですが、と付け加えた。
「こういう根回しをしておけば、後でこっちが犯罪者呼ばわりされるのを防止できる。私的な報復ではなく、正当な『積極的防衛』として認められただろ。それだけで充分目的は果たされた。
まあ、『集団的下ごしらえ』って感じか?」
バスラはそう言って、法務担当を見た。
「あなた『下ごしらえ』という言葉を使いたかっただけでしょ」
二人は同時に俺の方に顔を向けた。俺の反応を待っているのか?
え? ジョークだったのか? 俺のスキル「下ごしらえ」と絡めて? どう反応するのが正解なんだ?
「目的は、フォンさんのサークレット問題を解決できる技術者の確保。それと、クランを再び攻撃しようと思わないくらいに叩きのめすこと――でいいですか?」
固まった俺をフォローするつもりなのか、リロイが状況をまとめた。
「まあ、そうだな。技術者以外は捕獲する必要もないってなったら、気楽だろ?」
……上位ランクの人の感覚は、イマイチわからない。どんな手を使ってくるかわからない危険な相手なのに、どうして余裕があるように見えるんだろう。




