国との話し合い(後編)
「国は、妖精族とも宗教団体とも現状維持ということで、よろしいですか?」
意見が出ないとみて、バスラがまとめるように問いかけた。
言葉の端々に、揉めごとを起こしたくないという姿勢が見えた。それをバスラは問題を解決する意思がないと解釈したようだ。
「……ならば、どうされる?」
警備兵長官は態度を改め、バスラの真意をうかがうように質問を質問で返した。
「そちらが何らかの問題解決を望むなら共闘をと思ったのです。それが必要ないならば、我がクランに降りかかる火の粉を払うまで――ですね。
一般人と周囲の建物に被害がなければ、不問にしていただければ幸いです。もちろん、最大限の配慮はするつもりですが」
バスラは最初から国の支援も、武力も期待していなかったのか。ただ、邪魔をするな、治安を乱したと捕縛しに来るなと言いに来ただけなのか。
交渉して、共闘するつもりだと思っていたよ。
「冒険者ギルドは、冒険者が自分の身と財産を守る権利が保護されていれば、口出しはいたしません」
冒険者ギルドの職員も知っていたようで、バスラの後押しをする。やる気のない奴が、後からごたごた言うんじゃねぇぞ、と言わんばかりだ。
「サークレットの技術者を確保したら、私と共同研究しませんか?」
魔法使いが口をきいた。俺が魔塔で魔法を習っていたときに、見かけたことがある気がする。
でも、フォンが繭化したときにクランハウスに助言に来た人とは違うな。
「それは王城の魔法使いとして許されるのでしょうか? 私は魔法の知識があまりないので、その辺りは後日詳しい者と相談していただきたい」
バスラは軽く受け流した。襲撃や迎撃に比べたら、後でもいい話だ。
「それで?
クランが積極的な自衛をすることを、許可をいただけるのでしょうか。放置しておいたら、いつこちらが襲撃を受けるかわかりません。我がクランの周辺で一般の人に被害が出たら、お互いに困ることになりませんか」
バスラは警備兵長官の目を見て、目を細めた。王都の警備を担当する人間を挑発して、反応を楽しんでいる。
「一旦、持ち帰らせてもらいたい」
宰相府の事務官が、唸るように言った。決定権を持つ者を話し合いの場に出さなかった、国側の敗北宣言のように思える。
「わかりました。明日の夕方までには、お返事いただきたい」
バスラはこうなることを予見していたのか、大して気にしていないような顔をして、期限を切った。
「明日の夕方ですか?」
宰相府の事務官が顔をしかめた。
これから関係部署に話を持っていき、話し合いの日程を調整するだけで時間がかかる。宰相や国王の判断を仰ぐなら、もっと余裕が必要だ。
「こちらのクランが襲撃を受けた後に許可が出ても、遅いでしょう。
さる筋から、動物使いがモンスターで攻撃しようとしているという情報があるものですから」
「それを先に言え! 王都の治安を揺るがす重要な情報ではないか。なぜこの瞬間まで秘匿していた」
警備兵長官がバスラを怒鳴りつけた。
「確かな情報ではありません。そのような可能性もあるので気をつけろ、という忠告を受けただけですので」
たかが冒険者と侮っていた役人たちは、バスラの顔を凝視した。主導権を握っているのはこの獣人だと、ようやく気付いたようだった。
呆然としている宰相府の事務官を見て、バスラは代わりに会議を終わらせた。
「お返事をお待ちしています。明日の夕方まで」
返事が来なくても、待たずに行動するという宣言のように聞こえた。俺の気のせいではないと思う。
この話し合いが開催されるまでに数日浪費している。オンが岩モグラを押さえられなければ、明後日あたり、本当に襲撃されるかもしれないのだ。
「話し合いの申請が来た時に、冒険者ギルドの職員を同席させるという点で、警戒すべきだった」
宰相府の事務官は椅子に座ったまま、うなだれた。書記は無慈悲にありのままを記録している様子だった。
「少なくとも、何を求めているのか、事前に確認すべきだった。今夜徹夜したところで……」
呪文のようにぶつぶつとそんなことを呟いていた。
……ご愁傷様。




