国との話し合い(前編)
王宮で通された会議室は十数人規模の広さで、装飾のない実務的な部屋だった。
迎賓館で寝泊まりしていた頃に呼び出された会議室は、絨毯が敷き詰められ、扉一つ取っても凝った装飾が施されていた。
そういえば、バスラは廊下を曲がるときに「今回はこっちか」と呟いていた。そのとき既に扱いの差に気がついていたのだろう。
宰相府の事務官が、会議の始まりを告げた。宰相補佐の部下だ。
国側の出席者は、彼の他にフォンのサークレットを研究していた魔法使い、法務の事務官、警備兵長官。記録係の事務官もいるが、おそらく話し合いには参加しないだろう。
冒険者ギルドの職員が一名。俺たち、クランから四名。合計十名だ。
「まず事実確認から始めましょう。
バスラ氏は自身のクランハウスが襲撃され、再び襲撃される恐れがあるため、その対策を相談したい。これに相違ないですか?」
「そうですね。皆様お忙しいとは思いますが、よろしくお願いします」
バスラは礼儀正しく挨拶をした。
「バスラ氏によると、妖精族が関わっているということですが……警備兵長官?」
司会を務める宰相府の事務官が、話を振る。
「はい。狙いは、クランハウスに囚われている妖精族を保護するためと主張しています」
なんだと? そんな理屈が通るはずないだろう。フォンは妖精族を拒絶して繭に閉じこもったんだ。
俺は膝の上で拳をぎゅっと握りしめた。
「妖精族と言っても、いくつもの勢力に分かれています。
かの国の代表として動いているのか、彼女の祖母を名乗る者の手のものか、彼女を洗脳して育てた宗教団体か――どれか判明しましたか?」
バスラが警備兵長官に問いかけた。
「それは捜査上、明かせない」
警備兵長官はバスラを睨みつけて、回答を拒否した。
「クランハウス襲撃から今日までの、我々の不安にご配慮いただきたいものですが。
相手がわからないと、手加減のしようもありませんな」
バスラはやんわりと、情報を寄越さないなら政治的な忖度をしないと告げた。
警備兵長官は舌打ちをする。
「――長官」
宰相府の事務官が、長官をたしなめた。
長官は渋々、宗教団体だと白状する。事務官たちの反応を見るに、襲撃犯の素性は共有されているのだろう。
「なるほど。こちらとしては再び襲撃されないような手立てを考えたいのだが、国はこの件に関して、どのようにお考えか?」
バスラは机に両肘をつき、組んだ手の上に顎を乗せた。宰相府の事務官が、気圧されている。
法務の事務官が咳払いをした。
「我々としても注視はしているが、取り調べに踏み込むだけの証拠が足りない。襲撃犯の自白だけでは、敵対団体による偽装との可能性も捨てきれない」
「王都の治安を守るのが、難しいのはそういう面が多々あるからだ。ご理解いただけて、何よりです」
「その宗教団体の不穏な行動というのを、教えていただけますか?」
バスラは攻め口を変えたようだ。
「強引な勧誘をするとか、脱退させないとか、家族の訴えがありますね。財産を宗教団体につぎ込まれて困っているなど……。ああ、こうして並べると、本人ではなく部外者が騒ぎ立てているようだ」
法務の事務官は、面倒くさいという思いを隠そうともしなかった。
「バスラ氏は、どうしたいのですか? 教祖を倒して、宗教団体を潰したいのでしょうか」
「クランとしてはちょっかいをかけて来なければいい。それから、クランメンバーであるフォンの事態改善を図りたい。そのために宗教団体の狙いを知り、サークレットの問題を解決できる知識がほしい。サークレットの技術を知る者を確保するのが手っ取り早いだろう。
――概ね、そんなところですね」
バスラは王都の治安や、宗教団体の被害者を救おうなんて考えていないらしい。
「教祖を潰しても、次が出てきます」
宗教団体で育ったリロイが説明を始めた。言い返された形の法務の事務官がムッとしている。
「幹部になればいい思いができる組織が形成されています。昇進するために、どれだけ貢献すればいいかが点数でわかりやすく、競争させる仕組みができあがっているのです」
「点数制?」
宰相府の事務官が聞き返した。
「わかりやすい評価基準でしょう?
学生時代は優秀だったのに、世間の荒波に耐えられなかった優秀な者が集結していると考えてください。倫理観が壊れて世間から追放された研究者もいて、思うままに進んでいます」
思わぬ暴露話に、国の役人たちは動揺した。
「金持ちの子どもでちやほやされていたのに、大人になってそれだけでは通用しなくなったことに気付いたら? 親の財産を盗んで、自分の地位を上げようとします。
努力が嫌いで楽に権力を握りたい者たちは、進んで汚れ仕事をします。
法に詳しい者は、法の抜け穴を見つけて点数を稼ごうと必死です。それらは、すぐに団体内で共有されます」
「ば、馬鹿な! ……だが……」
警備兵長官は、何かを思い出したように口ごもった。
法務の事務官は、法の穴を熟知されていると聞いて額に手を当てた。
「複数の国に根を張り、お互いに助け合っています。一つの国で迫害されたら、別の拠点に移ればいい。ですから、撲滅することなど端から考えていません」
リロイはバスラを見て、バスラはうなずいた。
国側は、こちらが妙な正義感で訴えに来たと軽んじていたのだろう。自分たちより事態を把握している冒険者を、恐ろしいものを見るように眺めている。
俺はといえば、「そんな環境でフォンは育てられたのか?」ということが気になっていた。




