羽ばたき
昼食の後、サァラとオンは荷物を背負い、玄関に出た。同行する獣人は四人。途中で交代するために、倍の人数を揃えたそうだ。
二人は、それぞれ大型の鳥の獣人に抱えられる。首に手を回せと言われて、サァラが照れた。
「せ、背中に乗るんじゃ駄目なのかにゃ?」
「羽ばたきの邪魔……失礼。動きが阻害されますので」
「上空で寒さに手がかじかんで、背中から落ちたら大変ですよ」
「りょ、了解ですぅ」
サァラが耳を伏せた。
「お互いに腰を紐で結んだらどうかな?」
今の会話を聞いていて、鳥獣人の手だってかじかむかもしれないと不安になった。それが伝わってしまったようで、鳥獣人の一人は眉間にしわを寄せた。
「なるほど。何事にも絶対はないですから」
鳥獣人のリーダーらしき人が留守番の鳥獣人に指示して、ベルトを持ってこさせた。
「これは、鳥獣人以外の飛行訓練に使うものです。風の魔法使いで魔力の多い人などですね」
そう話ながら、手際よくサァラと自分の腰にベルトを着けた。それぞれのベルトは鎖で繋がれている。
「この鎖をどこかに引っかけないように、持っていてくださいね」
とサァラに鎖を握らせる。
「あ、じゃあ手袋が必要だな」
俺が言うと、誰かが衣装部屋に走って行った。
「お前、いつもこんな感じなのか?」
バスラが俺を見た。
「『こんな感じ』……ですか?」
「いや、よく気がつくなと」
しまった! やっちまった。
また、細かいとか、いつまで経っても出発できないとか文句を言われる。
「すみません、細かくて」
先に謝ってしまえ。
「何を言っているんだ? 事故の可能性を潰していくのは、いいことだ」
「危険予測と事故防止ができる人材は貴重です。生存確率を上げる、得がたい能力ですよ」
そんなふうに褒められて、びっくりしてしまった。
そっか。悪いことじゃないんだ。なんだか……頬がほてるのを感じる。
オンと鳥獣人も鎖で繋がれ、オンは手袋をはめていた。
「では」
この旅のリーダーが声を出した。
「いってくるにゃ」
サァラが、鳥獣人の腕の中から手を振ってくる。心なしか笑顔がぎこちない気がする。帰ってきたら、抱きしめて、思い切り甘やかしてあげたい。
ばさりと羽ばたく音がした。すぐにクランハウスの屋根の高さになり、あっという間に遠ざかっていった。
「そういえば、夢魔の人を呼ぶ話はどうなったんでしょう? オンがいない間に到着したら困りませんか?」
バスラも見送りに出ていたので、質問をぶつけてみた。
「ああ、あれなぁ。条件が難しくてな……」
珍しくバスラが言葉を濁し、幹部と顔を見合わせた。
「魔族の国は、海のはるか向こうにあります。ですから、呼び寄せるなら空を飛んでくるという話になりまして」
幹部が補足してくれた。
なるほど。今回鳥獣人に運んでもらったようなものか。地上を行ったら十日くらいかかる距離を二日に短縮できるのは、単純にすごいと思う。
「その場合、ドラゴンを使うって言うんだ」
「ど、ドラゴンですか?」
ワイバーンよりも強いやつ!
「尻尾で建物をなぎ倒しても不問にしろとか、帰る前の腹ごしらえで見境無く食べても許せとか……ちょっと、無理だろ」
「それは……無理ですね」
納得するしかない。というか、スケールが違いすぎる。
オンって、もしかして……かなりヤバイやつ?




