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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十五章 王都の冒険者

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不安の種

 衣装部屋から談話室に戻ると、サァラが唇を尖らせていた。

「オンと山脈に行くことになったにゃ」

 ルナはサァラの頭をなでて、なだめようとしている。

「あたいの故郷の方だから案内しろって」

「ああ、あの山脈にサァラの家があるもんな」

 サァラが殺されかけた俺を匿ってくれた家だ。


「でも、今から行って間に合うのか? 王都からトゥルメル領だけで五日、領都からサァラの家まで数日かかるだろ」

 それより早い岩モグラの速度が、改めて恐ろしい。

「鳥獣人が運んでくれるって言うんだけど……。子猫の頃に猛禽類に襲われたのを思い出すから嫌にゃ~」

 ああ、トラウマを刺激されちゃうのか。

 俺はルナの反対側に座り、サァラを抱きしめた。

「それは怖いよな」

「すぐに行けるから、もう午後に出発だってぇ」

 珍しくサァラが泣き言を言っている。両サイドから、ぎゅうぎゅうに抱きしめて、慰めることしかできない。


 ふと、疑問が湧いた。あの山脈から王都に向かっているのに、ターゲットが王城なのか、このクランハウスなのか、わかるものだろうか? 「誤差の範囲」と言われるレベルな気がする。

 まあ、オンの能力は桁違いなわけだが。


 いや、それよりも今はサァラだ。

「上空は寒いだろうから、防寒着を用意するか?」

「はっ、そうだにゃ。泣き言を言っている場合じゃなかった」

 ソファーに置いていた借り物の制服を、サァラの尻尾が叩いた。――あ、猫毛がついた。ま、いっか。



「女性ばかりの部屋に入ってもよければ、準備を手伝うけど」

 寒さで体力を失うことを考えると、甘いものや強い酒も持たせたい。服や小物の準備はルナに任せて、俺は厨房に行った方がいいかもしれないな。


「じゃあ、同室の子に許可をもらってくる」

 俺が考えている間に、ルナはパッと立ち上がって談話室を見回した。

「いないな。冒険者ギルドに行ってるんじゃないといいんだけどね。遠征に行くとは言ってなかったはず」

 そう言ってルナがルームメイトを探しに談話室を出るのと入れ違いに、オンが入ってきた。

 ハグをしている俺たちをじーっと見つめてくる。

「……オンは防寒着とか、必要ないか?」

 オンの視線の強さに、何だか居心地が悪くなってきた。俺は何かを誤魔化すように、オンに話しかける。


 オンは半眼の無表情を一瞬で消し、愛想のよい笑顔を浮かべた。ただ……笑顔の仮面を貼り付けたような、違和感がある。

「魔族は体内でいろいろ調節できるので、大丈夫です」

「そっか。便利だな」

「ええ。過酷な環境で育つもので」

 口調に棘を感じる。機嫌を損ねるようなことをしただろうか。

 まさか、防寒着を用意するサァラを軟弱だと非難している? 魔族と獣人では細かいことが違って当たり前だ。特に、猫は寒さに弱いんだから、気を遣うのは当然だし。


 オンの魔力制御の訓練では、サァラがターゲットの入れ物を取り替えるのを手伝っていた。デッドフロッグの討伐も一緒に行ったし、仲良くやっているはずだ。

 オンも空を飛ぶので緊張しているのかもしれない。そんなふうに自分を納得させようとした。

 胸がざわつくのは、大きな計画が動き始めたからだ。フォンを助けるための、希望が見えてきたせいだ。

 そうでなければ、何だと言うんだ?


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