そぞろ歩き
「むふふふふ」
サァラがご機嫌で、スキップをしている。
「……サァラ、ちょっと恥ずかしい」
可愛いんだけど、妙な後ろめたさが湧いてくる。
「むふーん? じゃあさー」
と何か言いかけたところで、サァラが人にぶつかりそうになる。とっさに手を伸ばして、サァラの腕を掴んだ。
ぶつかるのは回避できたが、俺が手に持っていた服が地面に落ちた。高台に行く前に買ったものだ。
「あーあ、もう。浮かれちゃって」
ルナが服を拾ってくれた。
「ごめんにゃ」
サァラがしょぼんとする。
「トーマ、サァラと手を繋いであげて。荷物はあたしが持ってあげるから」
ルナがそんなことを言い出した。俺は首をかしげながらも、サァラと手を繋ぐ。きゅっと握り返されたら、胸がぎゅっとしちゃうだろ。きっと俺の顔は赤くなってるぞ。
サァラは鼻歌を歌いながら、繋いだ腕を前後に振り出した。まるで子どものようだ。
ルナが反対側から囁いた。
「サァラも寂しかったんだよ。途中で迎賓館に様子を見に行ったとき、あたしはトーマと仲良くする時間があったけど、サァラはフォンを慰めてただろ」
……そういうことか。そこまで気が回らなかった。
「ルナはそんなところまで目配りしていたのか」
改めて、感心した。なかなか進まないフォンのサークレット問題で、俺は周りを見る余裕をなくしていた。
「リーダーだからね」
ルナは照れくさそうに、ニヒッと目を細めて笑った。
サァラが俺の腕を引っぱった。
「ここの海鮮焼きの屋台、フォンを連れてこようと思ってたん」
もくもくと香ばしい匂いが広がっている。磯の香りが食欲を誘う。
その隣の串焼きの店からは、タレの甘辛い匂いがしてきた。
「久しぶりに、屋台の料理を食べたいな」
「そっか。迎賓館でお上品なのばかり食べてたんだ?」
ルナが羨ましがるような、哀れむような複雑な表情になった。
「じゃあ、フォンも食べたがるよね、きっと」
「買って帰って、フォンの繭の周りで食べるか。匂いで起きたりするかもよ」
そうだったらいいなと、期待を込めて提案した。
「いいね! そうするにゃ」
サァラが俺の手をパッと放し、屋台で注文を始めた。
ルナは持っていた荷物を俺に返すと、「あたしのお勧めも買ってくる」と言い出した。
「おう。任せるよ」
俺たちが王城に籠もっている間に、彼女たちは王都に馴染んできたんだな。頼もしいと思う一方で、ちょっと寂しくもなる。
道の端に寄って、二人が戻ってくるのを待った。
道行く庶民たちの活気が心地良い。無遠慮な言葉に、気取らない所作。地に足の着いた生活感に、安らぎがある。
そこに、ピリッと射るような視線を感じた。そちらに顔を向けると、フードを被った人物がさっと狭い路地に身を隠す。
しまった。目線だけで探るべきだった。
追うか? いや、それも無謀かもしれない。
逃げたなら、深追いしなくてもいいか……。一瞬で、男か女かもわからなかった。
はあ、油断した。俺自身が狙われている可能性があるって、つい忘れてしまう。
俺の護衛を兼ねていたはずのルナとサァラは、すごい量を買って戻ってきた。
「……それ、食い切れるか?」
口には出さないけど、「フォンの分」と言っても、おそらく俺たちが食べることになるんだぞ。




