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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十四章 クランでの生活

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そぞろ歩き

「むふふふふ」

 サァラがご機嫌で、スキップをしている。

「……サァラ、ちょっと恥ずかしい」

 可愛いんだけど、妙な後ろめたさが湧いてくる。


「むふーん? じゃあさー」

 と何か言いかけたところで、サァラが人にぶつかりそうになる。とっさに手を伸ばして、サァラの腕を掴んだ。

 ぶつかるのは回避できたが、俺が手に持っていた服が地面に落ちた。高台に行く前に買ったものだ。


「あーあ、もう。浮かれちゃって」

 ルナが服を拾ってくれた。

「ごめんにゃ」

 サァラがしょぼんとする。


「トーマ、サァラと手を繋いであげて。荷物はあたしが持ってあげるから」

 ルナがそんなことを言い出した。俺は首をかしげながらも、サァラと手を繋ぐ。きゅっと握り返されたら、胸がぎゅっとしちゃうだろ。きっと俺の顔は赤くなってるぞ。

 サァラは鼻歌を歌いながら、繋いだ腕を前後に振り出した。まるで子どものようだ。


 ルナが反対側から囁いた。

「サァラも寂しかったんだよ。途中で迎賓館に様子を見に行ったとき、あたしはトーマと仲良くする時間があったけど、サァラはフォンを慰めてただろ」


 ……そういうことか。そこまで気が回らなかった。

「ルナはそんなところまで目配りしていたのか」

 改めて、感心した。なかなか進まないフォンのサークレット問題で、俺は周りを見る余裕をなくしていた。

「リーダーだからね」

 ルナは照れくさそうに、ニヒッと目を細めて笑った。



 サァラが俺の腕を引っぱった。

「ここの海鮮焼きの屋台、フォンを連れてこようと思ってたん」

 もくもくと香ばしい匂いが広がっている。磯の香りが食欲を誘う。

 その隣の串焼きの店からは、タレの甘辛い匂いがしてきた。

「久しぶりに、屋台の料理を食べたいな」


「そっか。迎賓館でお上品なのばかり食べてたんだ?」

 ルナが羨ましがるような、哀れむような複雑な表情になった。

「じゃあ、フォンも食べたがるよね、きっと」


「買って帰って、フォンの繭の周りで食べるか。匂いで起きたりするかもよ」

 そうだったらいいなと、期待を込めて提案した。


「いいね! そうするにゃ」

 サァラが俺の手をパッと放し、屋台で注文を始めた。

 ルナは持っていた荷物を俺に返すと、「あたしのお勧めも買ってくる」と言い出した。


「おう。任せるよ」

 俺たちが王城に籠もっている間に、彼女たちは王都に馴染んできたんだな。頼もしいと思う一方で、ちょっと寂しくもなる。


 道の端に寄って、二人が戻ってくるのを待った。

 道行く庶民たちの活気が心地良い。無遠慮な言葉に、気取らない所作。地に足の着いた生活感に、安らぎがある。


 そこに、ピリッと射るような視線を感じた。そちらに顔を向けると、フードを被った人物がさっと狭い路地に身を隠す。

 しまった。目線だけで探るべきだった。

 追うか? いや、それも無謀かもしれない。

 逃げたなら、深追いしなくてもいいか……。一瞬で、男か女かもわからなかった。


 はあ、油断した。俺自身が狙われている可能性があるって、つい忘れてしまう。


 俺の護衛を兼ねていたはずのルナとサァラは、すごい量を買って戻ってきた。

「……それ、食い切れるか?」

 口には出さないけど、「フォンの分」と言っても、おそらく俺たちが食べることになるんだぞ。


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