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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十四章 クランでの生活

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新しい居場所と昔話

 冒険者ギルドを出ると、ルナとサァラはエリオットのタウンハウスに荷物を取りに行くという。

「またあとで」

 そう言えることが、じんわりと嬉しい。


 俺は事務担当者と馬車でクランハウスへ戻ることになった。

「俺たちが徒歩で、ルナたちに馬車を譲った方がよかったと思うんですけど?」

 荷物があるのだからと提案したが、却下されたんだよな。


「狙われるとしたら君だからね。徒歩ならもっと護衛をつけないと。

 王城に隔離していた甲斐がなくなってしまう」


「それなんですけど、もう事態は俺の手を離れてますよね。

 冒険者ギルドの不正はアーデンさんの証言があればいい。宗教団体の問題は国同士の話になった。

 今さら俺を攫っても捜査を止められるわけじゃない」

 そんなに警戒することはないと思うんだよな。


「あ~、そういう認識ですか。

 損得を考えられる、冷静な人ならそうでしょうね。ですけど、理不尽な恨みというものもあるのですよ」

 と苦笑いされた。


 恨み……? 自業自得なのに……? あ、だから「理不尽な恨み」と言ったのか。


「それから、いくつもの実績をお持ちです。

 運搬に革命を起こした、ブロンズタートルの素材の質の向上、一角ウサギとぬいぐるみのブーム……あなたを確保したら、思わぬ富が手に入る」


「え? そんなのちょっと工夫しただけですよ。元からあった情報を組み合わせただけで、俺の発案ってわけじゃない」


「謙虚なのもいいですけど、それで警戒心が下がるのはどうかと思いますね」

 少し厳しい言い方をされた。


「あ、下級貴族の娘に既成事実を作られないようにって忠告されたことがあります」

 忘れていたけど、怖いことを言われたよな。


「それは恐ろしいですね。そうすると、貴族になりたい野心家にも目の敵にされる、と」

 他人事だから愉快だと言わんばかりに、嫌な可能性を突きつけてくる。


「いろいろと言いましたけど、用心してくれればいいんですよ」



 クランハウスに到着すると、エドガーとアーデンが出迎えてくれた。

 そういえば、ここに泊まっていたんだっけ。


「久しぶりに同郷の人間で話し合いますか」

 エドガーが穏やかに微笑んだ。


 二人が滞在している客室に案内された。まるでホテルの一室のように整えられている。

「ちらっと聞いたんだけど、トーマはここのクランに入ったんだって?」

 エドガーがポットからお茶を淹れてくれた。自由に飲めるように、保温機能がついた魔導具が置かれているそうだ。


「フォンを妖精族に取られないために、バスラさんが加入すればいいと……」


「俺も、お前をクランに入れていたら、何か違ったかな」

 アーデンがほんの少し後悔を滲ませた。

 村を出て冒険者になる者は、アーデンが引き受けて自分のクランに入れていた。俺は戦闘スキルも魔法スキルもなかったから、宿屋に就職したんだ。


「どうでしょうね。その場合は、少なくとも『ぬいぐるみ』の存在は知らなかったと思います。貴族のご令嬢を見かける機会なんかないでしょう?」

 雰囲気が暗くなるのが嫌で、茶化してしまった。


 アーデンは自分の義足を撫でて、しみじみと言った。

「お前のホテルに厄介にならなかったら、こんな性能がいい義足にも出会えなかったしな」


「ああ、そういえば、あのときの人たち妖精族だったんですね。王城で会いました」

 迎賓館で喧嘩別れしたけど、お礼を言った方がよかったかな。


「世間は狭いねぇ」

 エドガーがにこにこと茶菓子に手を伸ばした。素朴ではなく、王都らしいしゃれたものだ。とはいえ、迎賓館で出されるように、繊細な贅を尽くしたものじゃない。

 俺も一つ口に入れる。……こういうのでいいんだよ。やっと王城から脱出できたと実感した。


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