王城を出る
「先ほどの方は通訳が専門ですから言い負かせましたが、交渉が得意な人が出てきたら厄介です。負ける気はありませんが、引き留められる可能性が大きいでしょう。
すぐにクランハウスへ移動してください」
宰相が荷物を運べる馬車を用意するよう指示を出した。
「トーマ君とオルドさんも一緒に行きますか?
それなら急いで荷造りをしてください」
あれ、いいのか? 王城から出ていいなら出るけど。
嬉しい反面、急なことで戸惑ってしまう。
「あたいはフォンの荷物をまとめてくるにゃ」
サァラが手を挙げた。
ルナは、フォンの繭をちらりと見た。
バスラが連れてきた魔法使いが、繭も運べるように準備すると請け負う。
フォンの部屋の鍵はテーブルに残されていた。それを持った使用人が、二人を部屋へ案内していった。
こうして慌ただしく王城を後にすることが決まった。
煌びやかでお行儀のいい王城での生活から、逃れられる。
顔見知りになった使用人や騎士、魔法使いを目指す子どもたち……挨拶する時間はないが、元々住む世界が違うんだ。ほんの一時の縁だったと割り切ろう。
「オルドさんは、魔塔の方に荷物を取りに行く必要ないんですか?」
俺はクローゼットから服を取り出しながら尋ねた。
エリオットから借りた貴族の普段着は、布がしっかりしていて飾り付けもあって場所を取る。ぎゅうぎゅうに押し込めてしわをつけるわけにもいかない。
「……まあ、置いていっても構わないか」
と、微妙な言葉が返ってきた。
本当に大丈夫なのかな。ちょっと不安は残るが、触れないでおこう。
荷物を持って食堂に戻る。
宰相は王宮に戻り、代わりに宰相補佐が来ていた。
宰相が心配していたとおり、弁の立つ妖精族が通訳を介して申し立てをしているようだ。
妖精という言葉に穏やかな種族のイメージがあったんだけど、そんなことはないんだな。
興奮して持論を押しつけている姿に幻滅する。
宰相補佐の部下がそっと俺たちの方に来て、妖精族に気付かれないうちに馬車に乗れと言う。
軽く頭を下げて、俺たちは急いで裏口に回った。
初めて来た時も旅で汚れていたから裏口から入った。それを思い出して、冒険者は迎賓館の正式な客層じゃないもんなと笑いたくなった。
大きな荷馬車に乗ると、繭は柔らかな布で包まれて、側にルナとサァラが座っていた。
バスラとそのクランの魔法使いもいた。
「エリオット様は、妖精族に抗議するために残るそうだ。さあ、我がクランに行こうか」
バスラの合図で、馬車が動き出した。
迎賓館と王宮を行き来する豪華な馬車ではなく、荷物を運ぶ馬車だ。振動が伝わり、繭が転がらないか注意しておかないと――
「クランの加入手続きが終わったら、あたしたちも領主様のお屋敷から荷物を移動するから」
ルナは、繭を撫でながら言った。
「それ、触って大丈夫なのか?」
昨晩はどう扱っていいかわからず、周囲で心配するだけだったんだが。
「う~ん、あたいが何も考えずに触っちゃったにゃ。今のところ、問題ない感じ?」
サァラが鼻の頭をかきながら、笑った。
魔法使いとオルドは情報交換をしていて、特にサァラを咎める様子はない。
冒険者って、とりあえず動いちゃうところがあるよな。
慎重な王城の人たちを思い出し、自分はこっちの方が性に合っていると改めて思うのだった。




