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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十三章 過去と未来と

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せっかく孫に会えたのに side老婦人

 妖精の国に強制送還されることになりました。

 まるでわたくしが犯罪を犯したかのようではありませんか。

 遠路はるばる、孫に会いに来たのに。


 孫には息子の面影がありました。

 心優しく、自慢の息子。

 被害者の弁護など危ないからやめて欲しいと思いましたが、反対はできませんでした。

「母上が理解してくださって、嬉しいです」

 と言われてしまえば、「気をつけるのよ」としか返せません。


 息子が選んだ女性は、奉仕活動もよくする評判のいいお嬢さんでした。素晴らしいと思います。

 ですが、親としてはもっと個人の幸せを考えてほしいと思っていました。

 寄付をするより、いい家具を買った方が良いのではない?

 夜会よりも炊き出しの準備を優先するのは、貴族としていかがなものかしら?


 慈悲の心は適度に示せばよいもので、自己犠牲を払ってまでする必要はないでしょう。

 世間知らずのお嬢さんに、密かにため息を吐きました。

 若いうちは、純粋な女性が魅力的に映るものです。反対して燃え上がっても困りますし。


 お嬢さんの家が名家だったので、夫も反対しない。ついに二人は結婚してしまいました。


 孫が生まれ、落ち着いてくれるかと思いきや、息子の正義感は消えていませんでした。


 危険な宗教団体と対決しようというのです。家族が信者になってしまい、残された家族たちが取り戻そうと被害者の会を結成したとのこと。

 やめてほしい。そんなもの、本人の選択ではないですか。


 ですが、「事件が解決するまで、実家と接触しないようにするね」と。

 違います。そんなことを言っているのではありません。

 わたくしの身の危険ではなく、あなたを案じているのです。


 そして、悲劇が起きてしまいました。

 深夜に息子の家が襲われ、息子と妻は殺されたのです。部屋は荒らされ、記録が持ち去られた形跡がありました。

 絶対に、犯人は宗教団体です。

 それなのに証拠が見つからないなんて。


 騎士団は何をやっているの? 踏み込んで強制的に調べればいいじゃないの。

 一緒に活動していた人たちは同情を寄せてくれるけれど、何も事態が進展しない。

 被害者たちは、助けてもらった恩を今こそ返すべきではない? なんで弱者だからと、簡単に人に頼るのよ。



 お人好しの息子。命日に花を添えるのは何度目だろう。

 被害者の会の旗頭になってくれと言われたこともある。けれど、家族が騙された被害者と、戦って殺された被害者ではわかりあえない部分があった。

 何年経っても解決できない人たちに対して、不信感もでてきた。


 夫も初めは寄り添ってくれたけれど、最近は「お前の気が済むようにすればいい」と距離を置かれている。

 息子が生きていたら、今も活躍していたに違いない。孫の成長を見守り、賑やかな日々であったろうに……。



 そんな失意の日々を送っていたところ、久しぶりに被害者の会から連絡が来た。

 別の大陸の冒険者が、嫁に似た顔立ちだという。しかも、宗教団体の関係者に育てられた疑いが濃厚だと。

 洗脳のためのサークレットに妖精族の術が使われていて、技術協力を求められたそうだ。


 夫を焚きつけ、伝手を使って、その娘――孫に会う一行に加えてもらった。

 生まれて初めて国を出た。海を越え、陸路を進む。

 年寄りの体に長旅はきつかった。侍女をつけずに自分で身の回りのことをやるというのが条件だったので、慣れない身支度を頑張った。

 旅に出る前は、そうは言っても見かねて手伝ってもらえることを期待していた。けれど、本当に自分でやらなくてはいけない。

 逆に「あなたが参加した分、メイドを一人減らしたのです。我々の世話をしろと言わないことに、感謝してほしいくらいですよ」と言われてしまう。



 艱難辛苦を乗り越えて、ようやく孫に会える。

 そう思ったのに、迂闊に近づくなと注意された。

 サークレットの影響と、宗教関係者にデタラメな幼少期の記憶を植え付けられたせいで、情緒不安定だと。


 なんということでしょう。

 そんなときこそ、肉親の愛情が必要なはず。


 わからず屋たちの隙を突いて、わたくしは孫に呼びかけた。

 戸惑ったような顔をされ、可哀想にと涙が出てくる。


 今までどうしていたのか、体は大丈夫かと問いかけたが、返事がない。

 もしかして、妖精の言語を忘れてしまったのだろうか?

 五歳児の記憶は……?


「あなた、本当はフィオルニアという名前なのよ。それも覚えていないの?」


 その名前が引き金だった。

 サークレットの石が、孫の脳を壊すべく、めり込み始めた。

 ほら、やっぱり本人だったわ!

 わたくしの孫よ。ようやく会えたわね。


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