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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十三章 過去と未来と

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食堂での言い争い

 老婦人――婆さんが泣き叫んでいる。

 腕を振り回してこちらに来ようとしているが、俺は睨みつけて短剣の鞘に手を置いた。

 あくまで威嚇だが、婆さん以外の妖精族には牽制になっているようだ。


「妖精族で繭に詳しい人だけこちらに来るように」

 オルドが言葉少なく命じた。


 通訳は命令されたことに一瞬ムッとした顔になった。だが、素直に妖精族に通訳をする。

 この状況で拒否権があると思うな。


 話し合いの末、一人男と通訳がこちらに来た。

 婆さんは体力が尽きてきたのか、ようやくすすり泣きに移行していた。

 お年寄りだけど、フォンが怯えているのに抱きついたりしたのだ。全然同情する気にならない。



「この繭の中に話しかけることはできるのか?」

『うつらうつらしている状態ですので、音は聞こえていても聞いているかはわかりません』


「こうなった場合、通常はどのように対応するのか?」

『自宅に運び、時を待ちます』


「つまり、為す術がないということか?」

『……そうですね』


「このまま死んだりすることはないのか?」

『目覚めずに衰弱死することもあります』


 オルドと妖精族の男の質疑応答では、解決策が浮かび上がってこなかった。


「ああ、それであのバーサンが喚いているのか」

 つい嫌味が出てしまった。怒りが爆発すると、お年寄りを大切にしようという考えは吹っ飛ぶな。

 他の妖精族たちが婆さんに同情的なのにも、苛立ってしまう。



 目の下に隈を作った宰相補佐が現れた。

 魔導通信で概要は聞いているのだろう。じろりと食堂を見回して、まず言った言葉が――

「そのご夫人は、登城名簿に記載されていませんよね」


「あの、行方不明だった孫との再会で……」


「まだ本人か確認できていません。確認できた後に、本人の意思を確認してからというお話にしていたはずです。

 そのご夫人を貴族牢にお連れしろ」

 宰相補佐は淡々と連れてきた警備兵に指示を出した。


 火種があったなら、事前に教えてほしかった。


「そんな!」

 妖精族から抗議があがる。


「こちらは、国民を害されているのです。断っているのに、危険人物を城内に引き入れた責任も追及させていただきますよ」

 頼もしい宰相補佐は、情に訴える妖精族を退けた。



 繭に詳しい人と通訳だけを残して、妖精族を客室に戻らせた。廊下には警備兵が立ち、実質軟禁状態になる。


「この繭は移動できるのか? 触っても中の人には影響ないのか?」


 その場に残った妖精族も、それほど詳しくはないらしい。


「魔塔に連絡して、妖精の繭化の資料を持ってきてもらおうか」

 オルドが提案した。


「魔塔で実験対象のように、いじくり回されたりしませんか?」

 俺が不安になって、待ったをかける。


「……するだろうな」

 オルドは、魔塔に倫理観を期待するなと言った。


「でしたら我が国に持ち帰って、繭から出てくるのを見守りますよ」

 いいことを思いついたというように、通訳がドヤ顔をしている。


「ははは、我が国を舐めてますね? 本人が嫌がって引きこもったのに、その原因に身柄を渡すなどするわけがないでしょう。

 とりあえず食堂は封鎖して、オルドさんかトーマさんが常に側にいるということで対応したい。

 よろしいですかね?」

 俺たちはもちろん承諾した。


 明日からの食事は各人の部屋に運ぶことにして、食堂の封鎖が決まった。

 使用人たちが、簡易ベッドを持ち込んでくれる。


「フォン、大丈夫か?」

 声をかけてみたが、反応は返ってこない。夜の静けさが、心細さを募らせるようだった。


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