食堂での言い争い
老婦人――婆さんが泣き叫んでいる。
腕を振り回してこちらに来ようとしているが、俺は睨みつけて短剣の鞘に手を置いた。
あくまで威嚇だが、婆さん以外の妖精族には牽制になっているようだ。
「妖精族で繭に詳しい人だけこちらに来るように」
オルドが言葉少なく命じた。
通訳は命令されたことに一瞬ムッとした顔になった。だが、素直に妖精族に通訳をする。
この状況で拒否権があると思うな。
話し合いの末、一人男と通訳がこちらに来た。
婆さんは体力が尽きてきたのか、ようやくすすり泣きに移行していた。
お年寄りだけど、フォンが怯えているのに抱きついたりしたのだ。全然同情する気にならない。
「この繭の中に話しかけることはできるのか?」
『うつらうつらしている状態ですので、音は聞こえていても聞いているかはわかりません』
「こうなった場合、通常はどのように対応するのか?」
『自宅に運び、時を待ちます』
「つまり、為す術がないということか?」
『……そうですね』
「このまま死んだりすることはないのか?」
『目覚めずに衰弱死することもあります』
オルドと妖精族の男の質疑応答では、解決策が浮かび上がってこなかった。
「ああ、それであのバーサンが喚いているのか」
つい嫌味が出てしまった。怒りが爆発すると、お年寄りを大切にしようという考えは吹っ飛ぶな。
他の妖精族たちが婆さんに同情的なのにも、苛立ってしまう。
目の下に隈を作った宰相補佐が現れた。
魔導通信で概要は聞いているのだろう。じろりと食堂を見回して、まず言った言葉が――
「そのご夫人は、登城名簿に記載されていませんよね」
「あの、行方不明だった孫との再会で……」
「まだ本人か確認できていません。確認できた後に、本人の意思を確認してからというお話にしていたはずです。
そのご夫人を貴族牢にお連れしろ」
宰相補佐は淡々と連れてきた警備兵に指示を出した。
火種があったなら、事前に教えてほしかった。
「そんな!」
妖精族から抗議があがる。
「こちらは、国民を害されているのです。断っているのに、危険人物を城内に引き入れた責任も追及させていただきますよ」
頼もしい宰相補佐は、情に訴える妖精族を退けた。
繭に詳しい人と通訳だけを残して、妖精族を客室に戻らせた。廊下には警備兵が立ち、実質軟禁状態になる。
「この繭は移動できるのか? 触っても中の人には影響ないのか?」
その場に残った妖精族も、それほど詳しくはないらしい。
「魔塔に連絡して、妖精の繭化の資料を持ってきてもらおうか」
オルドが提案した。
「魔塔で実験対象のように、いじくり回されたりしませんか?」
俺が不安になって、待ったをかける。
「……するだろうな」
オルドは、魔塔に倫理観を期待するなと言った。
「でしたら我が国に持ち帰って、繭から出てくるのを見守りますよ」
いいことを思いついたというように、通訳がドヤ顔をしている。
「ははは、我が国を舐めてますね? 本人が嫌がって引きこもったのに、その原因に身柄を渡すなどするわけがないでしょう。
とりあえず食堂は封鎖して、オルドさんかトーマさんが常に側にいるということで対応したい。
よろしいですかね?」
俺たちはもちろん承諾した。
明日からの食事は各人の部屋に運ぶことにして、食堂の封鎖が決まった。
使用人たちが、簡易ベッドを持ち込んでくれる。
「フォン、大丈夫か?」
声をかけてみたが、反応は返ってこない。夜の静けさが、心細さを募らせるようだった。




