ちょっと目を離した隙に
食堂に向かう間に、オルドが妖精の国から技術者たちが来たと話してくれた。
フォンのサークレットを調べてくれることになっている。
先日から迎賓館にいる人たちは通訳で、今日来た人たちはしゃべれない。専門的な会話になると、通訳の人たちに知識がないから困ってしまうそうだ。
そんな話を聞きながら食堂に入ると、老婦人がフォンの肩を掴んで、なにやらまくし立てていた。
フォンは困惑したまま、返事もできないでいる。
他の妖精族は口頭で落ち着かせようとしているが、老婦人は止まらない。
しまった。オルドが俺を迎えに来たから、フォンが一人だったのか。
老婦人は何かを叫んで、フォンに抱きついた。フォンは座った状態だったので、立っている老婦人から逃げることができない。
「何してるんだ!」
老人だろうと女性だろうと、フォンを傷つけるなら許さない。
走って二人のところまで行こうとするのを、両手を広げて遮る者がいた。
「申し訳ございません。絶対に危害は加えませんので」
通訳は俺の勢いを削いでから二人に近づき、老婦人の方に話しかけた。
だが聞く耳を持たない。首を横に振って、ますますフォンにしがみつこうとする。
不安そうなフォンと目があった。
もう、力ずくで助けるしかない。一度は通訳の顔を立てたが、無視してやる。
俺が老婦人の肩に手をかけ、引き剥がそうとしたその時――
老婦人が何か言葉を発し、フォンのサークレットの石が光った。
石を囲っていた金具がはじけ飛ぶ。
フォンが額に巻いている布に、石がめり込んでいく。
サークレットが直に肌に当たらないように巻いている布に、ぐりぐりと――!
オルドが老婦人を引き剥がす。
「そいつを拘束しておけ!」
妖精族の人たちが慌てて、床に転がされた老婦人を取り囲んだ。
俺は、フォンたちと妖精族の間に陣取る。オルドの邪魔はさせない。
背後でオルドの詠唱が聞こえるが、何の呪文か素人にはわからない。
シュルシュルっと妙な音がした。
振り返ると、フォンが木の枝のようなものに囲まれつつある。
「フォン!」
叫ぶと、うっすら目を開けたフォンの口が「ト……マ」と動いた気がした。
完全に木の枝で覆われ、楕円形の繭が迎賓館の食堂に浮かんでいる。
「なんだ、これは?」
「樹木系の妖精の、防衛手段です」
妖精族の一人が、青ざめながら言った。
「外部からの攻撃ではないのか。反射の呪文が効かないわけだ」
オルドは額に汗を滲ませながら、悔しそうだ。
「つまり? フォンには危険がないと?」
「はい。そのはずです。気持ちが落ち着いたら、繭を解くはず……」
「では、その婆さんがフォンを傷つけて――引きこもりたいと思うまで追い詰めたってことだな?」
俺の乱暴な話し方に、みんなが驚いているのを感じる。迎賓館だから行儀良くしていただけ。
もう、悠長なことを言っている場合じゃない。
「悪気はないのです。傷つけるなんて、絶対にしません。
彼女は、生死不明と思われていた孫なのです。それで、感極まって話しかけていただけで……」
通訳が必死に弁護する。
「だが、フォンはそれを聞きたくないと思ったから、こんなことになったんだよな?」
反省していない妖精族に、目つきも言葉もきつくなっていく。
「それは……」
「宰相室と魔塔に、連絡してください」
こいつらに都合いいようにされないために、助っ人を呼んだ。
もう退勤時間を過ぎているが、宰相室なら誰か残っているだろう。




