手紙
エリオットがギルドニュースを持ってきた。
アーデンとバスラの対談が載っている。災害級のモンスターを協力して討伐した話だ。それを読めるなんて、興奮する。
俺はアーデンからは聞いていたが、バスラの視点が入るとまた違うことがわかる。
ああ、ルナとサァラも興奮して読んだだろうな。彼女たちもCランク冒険者として討伐に参加していたんだから。
さりげなくレスタール王国と冒険者支部の対応の悪さが書かれていた。
「これが冒険者の待遇改善に繋がるといいですね」
「脅威が去れば、英雄たちの活躍は心躍るものだ。ギルド会員への無償配布以外に、有料版をたくさん作ると言っていたよ。臨時収入になると喜んでいた」
エリオットが、自分も何部か買う予定だと笑った。
「あの、それは五年くらい前のアーデンさんのお話ですか?」
先日、絡んできた妖精族の人が話しかけてきた。
「……そうです。どうぞ」
エリオットは少し警戒しながらも社交的な笑顔を作り、ギルドニュースを見せてやる。
その人は記事を読んだ後、俺を見た。
「もしかしたら君は、アーデンさんと一緒にいた少年ですか?
私は討伐直後にエレッサのホテルでお話を聞かせていただいた者です」
「ああ、あのときの通訳さんでしたか。お久しぶりです」
妖精族って顔が整いすぎて、あまり見分けがつかないんだよなぁ。
「ホテルで料理人をされていませんでしたか?」
よく覚えてるなぁ。
「ホテルは臨時の手伝いで、その期間が終わりました。
そのあと冒険者になったんです。夢だったので」
「ほう。その転職はすごいですな。それで、今は王城に?」
あ、確かに、訳の分からない経歴になっている。
普通の冒険者が王城に長期滞在することはないよな。Sランクのアーデンだって、この迎賓館には泊まっていないのだし。
「様々な事情があるものですよ、お互い……ね?」
エリオットが俺たちの間にさりげなく入る。
一度緩んだ空気が、また険悪な感じに戻ってしまった。
この通訳さん、何がしたいんだろう? フォンを盗み見るような目が不愉快だぞ。
嫌な気分のまま、フォンとオルドを魔塔に送り出す。
エリオットはぬいぐるみ関係の会議に出席すると、出ていった。
何もやる気が起きず、部屋に戻ってしまった。
俺はここで、何をしているんだ?
しばらく冒険者の活動をしていないことが、急に不安になってきた。
体を動かしたり魔法を習ったり、時間を無駄にしていないつもりだったが、それが役に立っている実感がないんだ。
不安になってやることには、ろくなことがない。
ふと思いついて、ガルドとブルーノの親からの手紙を読んでしまった。
「どうか息子を許してほしい。あの子は昔から優しい子で――」
「魔が差しただけです」
「あなたも同じ村の子でしょう?」
「あなたにも非はあったのではありませんか」
「どうか減刑の口添えを」
読まなければよかった。気分が悪くなっただけだ。
魔が差しただけで殺されそうになったのか? 大人しくやられればよかったのか?
……馬鹿馬鹿しい。
夕食にも現れない俺を、オルドが呼びに来た。
ベッドにうつ伏せになっている俺と、くしゃくしゃになった手紙を見比べる。
「落ち込んでいる理由はこれか。読んでいいか?」
と問われて、枕に顔を隠した状態で「ああ」とくぐもった声で答えた。
「ほう、自分勝手でいっそ愉快なほどだな」
「俺は……冷たい人間でしょうか? 親の愛を知らないから……」
「ん? 護衛任務中に襲ってきた盗賊が、辛い過去を背負っていることなんかざらにある。
そんなことでいちいち減刑する必要があるか?
そいつらに囲われていたという女たちに『反省させる。生きて戻してくれ』と懇願されて、戻すか?
他に生きる手段がないなら、また繰り返すだろう」
俺は枕から顔を上げた。
いくつもの荒波を乗り越えてきた魔法使いは、「そんなことより飯だ」と言った。




