特に何もない一日
エリオットは宰相補佐に会いに行った。ぬいぐるみを作る領が決まったかを確認すると言っていた。
俺は、騎士団の訓練場へ向かう。
魔法の訓練は、中止することになったのだ。
少しだけ魔法を発動できたのだが、寿命を縮めかねない使い方をしているらしい。
外部の魔力を取り込めと言われても、よくわからない。体内の魔力だけ使っていると、あっという間に枯渇するんだそうだ。
魔法を習っていた子どもたちは、無意識に外部魔力を取り込める子ばかりだという。
俺は魔法を諦めた。
もともと魔法系のスキルじゃなかった時点で、学ぼうとも思わなかったんだ。火打ち石の代わりに火をつけられるだけで上等だろう。
「今まで授業に混ぜてくれて、ありがとな」
挨拶をしたら、別れを惜しんでくれた。
ここの子どもたちは、スキルを得る前に魔法が使えている。本当に優秀な人材だな。
だから、生意気な口をきくのも許されてきたんだろう。
「もっと頑張ればいいじゃん」
「魔法が使えなくても、生きていけますよ。落ち込まないで」
「あの、美人のお姉さんを紹介してください」
「ん? フォンのことか? ませガキめ」
頭をぐりぐり揉んでやった。
最初はエリートなお子様たちとギスギスしていたけど、少し仲良くなれたと思う。
というか、ぐいぐいプライベートに入ってこようとして、こちらが引くこともあった。
村でもこういう子はいたけど、あまり仲良くなかった。「トーマはなんで親と仲良くできないの?」と、ずけずけと人の事情に踏み込もうとするのは勘弁してほしかった。
今は、親のことを訊かれたら「独立してるんで」と躱すことができる。大人だから、穏便にやり過ごすんだ。
教師にもお礼を言うと、そっと耳打ちされた。
「王女殿下がバーベキューのことを耳にされて、ご自分も参加したいとおっしゃっているそうです。
もし、やることになったらご協力いただけますか?」
問いかけるように言っているが、目は「お前が言い出してやったことなんだから」という圧を感じる。
子どもたちが頭でっかちになっているからガス抜きさせて、居心地を良くしようと思っただけなんだが……。
仕方ない。
「その時にまだ迎賓館にいたら、お手伝いしますよ」
と、答えた。
「はっ、そうでしたね。お客様だったんだ」
ええ、王城の職員ではないですね。ずるずると長期滞在していますが。
そんなことを思い出しながら、騎士団の訓練場への道のりを歩く。慣れてくるとその都度馬車に乗るのも面倒くさい。
体を動かすと、その間は悩み事が消える。体に意識を集中するからな。
休憩時間に声をかけられた。
「おう、久しぶりだな。魔法の授業はどうした?」
「あはは、あまり才能がないことがわかりました」
「あの連中は特別だから、落ち込むなよ」
「ひどいこと言われなかったか? 小さい頃に親から引き離されて魔法、魔法で、人間味に欠けるんだよな」
親と引き離されて……?
腑に落ちた。
大人を試すように挑発し、一度懐いたらベタベタとまとわりつく、妙な距離感。愛に飢えているんだ。
……今度、手作りのお菓子でも作って差し入れるか。いや、一緒に作るのもいいかもしれない。
ふと、引き出しにしまった手紙が脳裏をよぎった。
ガルドとブルーノの親からの手紙が――




