領主が王都に来たらしい
久々にトゥルメル領主の孫、エリオットと会った。
彼は迎賓館で朝食を取っているときに現れた。
「今度は祖父も連れて来たんだ。会議によっては祖父が出席することになる」
そう言って、給仕が入れたお茶に口をつける。
そういえば、一度領地に戻っていたんだっけ。
ん? 祖父ということは領主ということか?
話が国際的なことまで広がっているから、領主本人じゃないと決められないこともあるかもしれないな。
先日も立ち消えたとはいえ、戦争の話が出たし。その場合、レスタール王国と接しているトゥルメル領は大変なことになる。
オルドは「引っ越しは無事に終わりましたか?」と尋ねている。
彼が所属する「光牙の道標」は本拠地をトゥルメル領に移すことになり、他のメンバーが引っ越しをしていたはずだ。ルナとサァラも手伝うと話していた。
「一応、終わったけどさ……後で、文句をたくさん言われると思うよ」
エリオットが嫌なことを思い出したように、眉間にしわを寄せた。
「いえ、途中経過はどうあれ、終わったのならよいのです」
オルドはしれっと言い返した。
これは……大変なことを承知の上で人に押しつけた感じがするな。
エリオットは「はあ?」と威嚇するような声を出してから、「確信犯か」と眉間のしわを一層深くする。
……何があったのか、聞くのが怖い。
ルナもサァラも人が好いから、こき使われただろうな。もし俺がその場にいたら、「下ごしらえ」のスキルで役に立てたはずだと思うと、ちょっと悔しくなる。
「そうだ。アーデンさんたちに王都を案内するんだ。
君たちも参加するかい?」
エリオットはティーカップを上品に、音もなく置いた。
「いいんですか?」
俺はその言葉に飛びついた。
王都をまだ観光していないし、ルナとサァラにも会いたいし、一度この窮屈な王城を出たい。
フォンも嬉しそうに「行けるなら、行きたいわ」と微笑んだ。
「それは……危険なのでは?」
離れたテーブルで食事をしていた、妖精族の一人が立ち上がった。ずずっと椅子が音を立てるのは、迎賓館では眉をひそめられる行為だ。
俺たちは驚いて、そちらを見た。会話が自然に耳に入ってしまうほど近くはない。
「聞き耳を立てるのは、マナー違反ですよ」
エリオットが威厳を出して、盾になる。
「申し訳ございません。
ですが、誘拐などの危険があるために王城にいるとお聞きしましたもので」
妖精族の紳士は、謝罪をしつつも引き下がるつもりはないようだ。
「ご親切に、ありがとう。
ただ、これは宰相にも許可を得たことですので、ご心配には及びません」
「あの、でしたら、私どもも同行させていただけないでしょうか」
ちらりとフォンの方を見た気がする。
「そのようなおもてなしは、外交担当部署に要望を出されたらいかがでしょう」
エリオットは社交的な笑顔のまま、声に苛立ちを滲ませた。
「そうですね。失礼しました」
他の妖精族に腕を引かれ、その男はうつむいて椅子に座った。
あれ? あの人、なんだか見覚えがあるような……?




