魔法の授業
それぞれが自分の練習を始めると、教師が俺のところに来てくれた。
村で教わったときは、体を巡るエネルギーを感じるように言われたところで挫折した。
「ちょっと触るよ」
教師が俺の腕を取った。俺の手首に、教師が人差し指と中指を添えた。
「脈を打っているのがわかるかな? つまり、皮膚の下に血が流れている」
俺はうなずく。
応急手当を習った時に、簡単に体の仕組みを教わった。
「厳密には違うが、血液みたいに体全体に広がっていると考えればいい」
それなら少しわかるかも。
「巡っているものを手のひらに集めるイメージをして。なんとなく温かくなってくるだろう」
しばらくやってみたが、うまくいかない。
「それなら、両手で見えない球を包むような形を作って。ただし、指先は触れない。
その丸い空間にエネルギーを集めて」
……集まったか? よくわからない。
「そのエネルギーを凝縮して、指先に持っていく。
火を作る呪文を唱える。続いて言いなさい」
言われたとおりにしたら、ポッと小さな火が指先に灯った。
一瞬だけ。すぐに消えた。
「はい。魔法が使えることがわかりましたね」
教師は満足そうに褒めてくれた。
俺は額の汗を拭い、お礼を言う。
すると、年下の少年少女に、ゲラゲラ笑われた。
「あんな小さい火が出せるの、逆にすごい」
「俺だったらもっといろんな技に変えるね」
事実だが、人を見下して嫌な感じだ。
この感じ、懐かしいな。
下ごしらえが冒険者になれるのかよって言われていた頃を思い出した。
楽しい思い出ではない。心がざらりとするのを、「子どもに腹を立てるな」と理性で抑えた。
教師は一応生徒たちをたしなめたが、諦めているようだ。
子どもたちは不満を隠さないまま、口先だけで「すみません」と言った。
「この子たちは物心つく前に魔力暴走を起こして、親に捨てられています。
関わる人間がマッドサイエンティストばかりなので、人格形成がちょっと……。お気を悪くしましたよね」
授業が終わってから、教師に謝られた。
「いえ、お邪魔しているのはこちらなので――
ただ、大人になってやっていけるのですか?」
俺の言い方にも棘があるなと、苦笑する。
あんなふうに馬鹿にしていたら、人間関係がうまくいかないんじゃないか。
人によっては成長過程で反省して変わることもあるけれど、周りがそうだと、それでいいと考えるようになる。
「マッドサイエンティストになるか、軍の前線で活躍するか、ですね。
一般社会に溶け込んで幸せになるのは難しいでしょう」
魔法以外の世界の授業もあるが、聞く耳を持ってもらえないと教師は嘆いた。
「先生は、ここ出身ではないのですか?」
話しぶりからは、魔塔以外の世界を知っているように感じる。
「貴族の四男です。魔法のエリートとして学園を卒業しましたが、魔塔では下の方ですね。
研究ではなく、魔法教育理論の部署に配属されました」
エリートたちが集まり、その中で更に上下ができる。
なんだか、魔塔の人間関係も複雑なようだ。
まあ、それはどこでも一緒か。
食堂でルナとオルドと合流した。
先ほどの傲慢な子どもたちと違い、「普通の世界」に戻ってきた気がしてホッとした。
フォンが連日滅入っているのは、あんな感じの魔法使いに囲まれているせいではないかという気がした。
食事をしながら、魔法の授業がどうだったかという話題で盛り上がる。
「あんまり小さい火だったから、子どもたちに笑われたよ」
苦笑いしながら、スープをすくう。
「魔力の大きさや、使える魔法で人を見下す者はいる。
まあ、世間を知らないうちは、自分が無敵だと思うものだ」
オルドがそう言う。
「十歳でスキルをもらった直後も、それで上下を決める傾向はあるな」
幼なじみのガルドと友達ではなくなったのも、俺が戦闘系のスキルじゃなくなったからだ。
だが、あれから十年経って、冒険者でいるのは俺の方。
ガルドは罪人になってしまった。
「人生は、スキルだけで決まるものではないわよね。魔法も同じだわ。
その人を形作る特徴の一つというだけ……」
フォンがデザートにフォークを入れようとした。
「あ、ちょっと待って」
お皿ごと受け取り、ムースに添えられたメレンゲに火魔法で焼き目をつける。
表面がコーティングされ、中はぷるぷるになるはずだ。
オルドの分もやってやった。
「ほう、食感が面白い。すごい成果だな」
それを隣で見ていた魔法使いに、自分のもやってほしいとせがまれた。
「え、自分でやればいいじゃん」
魔法のプロが何を言っているんだ。
「俺が火魔法を出したら、一瞬で黒焦げになる」
「なるほど?」
威力が高いとコントロールが大変なのか。
そんな話をしていたら、いつの間にか行列ができていた。
「初心者がそんなに魔法を使ったら、魔力切れになりませんかね?」
そう冷静に聞き返したら、席に戻ってくれた。
その中には、先ほどの子どもたちと同じように育った人もいるだろう。
大人になったらそれなりに聞き分けが良くなるかもしれないと、希望を見いだした。
世間に揉まれて、へこんで、大人になっていくんだもんな。
ふむ。魔法を使えたら、料理の幅が広がるかもしれない。
上級者じゃないからこそ、できることもある気がしてきた。




