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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十三章 過去と未来と

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暇つぶし

 ぬいぐるみの打ち合わせが終わり、商業ギルドの人たちはトゥルメル領に帰ることになった。

 数日は王都の領主の屋敷に滞在し、商業ギルドの王都支部に顔つなぎに行ったり、流行の調査をしたりするらしい。


「トーマも一時的に王城を下がって、我が屋敷に来るかい?」

 エリオットにそう尋ねられた。


 久しぶりにルナとサァラにも会いたいが、連日魔塔に通い焦燥していくフォンを置いてはいけない。

「フォンと行ける日を楽しみにしています」


 そう答えたら、フォンが何か言いたげな顔をしていた。

 口先だけでも「私に構わずいってらっしゃい」と言えないのだろう。

 俺は「大丈夫だ」というように、フォンの目を見て軽くうなずいた。



 俺は時々会議に呼ばれ、呼ばれないときは資料室で勉強したり、騎士団の訓練場の隅で体を動かしたりしている。

 騎士とは戦い方や体の作り方が違うから、訓練には混ざれそうにない。



「迎賓館に滞在している冒険者です。

 体がなまってしまうので、場所をお借りしたいと思って来ました。

 不快かもしれませんが、お邪魔にならないよう気をつけますのでお許しください」

 そう下手に出ると、上官らしき人は友好的に受け入れてくれた。


 宰相補佐の人に話を通してもらったから、客人を無下にできないというのもあるだろう。



 一通り体を動かしてみる。なんだか体が重く、切れが悪い。

 悔しい。しっかりと体をほぐして、基本の動きを繰り返した。


 体が元に戻ってから、せっかくなのでこの環境を活かしたいと思うようになる。

 隅っこで騎士たちの訓練を見学して、参考になりそうな部分を真似してみた。


 それに気付いて、休憩時間にアドバイスをしてくれる騎士もいた。

 逆に「お前なんかが騎士の真似事したって無駄だぜ」と嫌味を言ってくる者もいた。


 偏見かもしれないけど、強そうな人ほど親切な気がする。

 適切なアドバイスって、理解した上で分析しないとできないからな。



 情報系の部署の人は疑り深く、いろいろと質問された。

 俺がレスタール王国と冒険者ギルドの不正をあぶり出す会議のために滞在していることは、情報系の人にも内緒なのか?


 自分の個人的なことは答えるが、滞在理由はぬいぐるみ関係だと誤魔化した。


「君が、荷物に絵を貼るのを発明したトーマ氏なのか!」

 ワイバーン討伐の際はDランクで、後方支援をしていたと話したときに情報系の人が目を輝かせた。


 大声で言うから、他の人も集まってきた。


 兵站を担当する人たちに感謝された。

「遠征先で現地の人を雇ったとき、あれはすごく便利なんだ。文字を読めない人が多いからさ」


 それがあってから歓迎モードになって、自主練もしやすくなった。



 だが、そんなふうに目立つのはよくなかったようだ。

 建物の影に連行され、「いい気になるなよ」と、突き飛ばされた。


 数人で取り囲むなんて卑怯だよな。


 けど、そういう奴ほど訓練をサボっているから、簡単に返り討ちにできてしまった。

 貴族を暴行したと怒られるかと冷や汗をかいたが、普段から素行が悪かったらしく、俺へのお咎めはなし。

 連中は、どこぞの砦に異動させるという噂を聞いた。



 ある日、練習熱心な騎士が、手首を押さえてうずくまった。

 そのまま救護室に運ばれていった。


 それを見ていた騎士たちの会話が耳に入る。


「体が練習に耐えられなかったんだな」

「気持ちはわかるが、現実を見極めないと。

 努力すれば叶うはずというのは、夢の内容による。先に体が壊れちまうこともあるさ」

「第一線にこだわって無茶しすぎだ。兵站や情報部門だって、立派な仕事なのに――」

「あの家門は剣しか認めない。弓の才能を伸ばせば、もっと評価されただろう」


 彼のひたむきな努力を見守ってきたからこそ、悔しさが言葉の端々に滲む。

 


 先日、彼が言っていた。

「獣人のように強い体、魔法に才能がある人、戦闘系のスキルを与えられた人……そんな人たちと肩を並べるのは、並大抵の努力では無理なんだ。

 正々堂々と、父上に認められたい」


 自分と重ねて応援していた彼が、負傷した。

 練習で手首を叩かれたわけでもなく、素振りで――自爆したようなものだ。


 強く願っても、できることと、できないことがある。

 無視できない現実が、俺の胸を重くした。


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