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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十三章 過去と未来と

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弱気のフォン

 商業ギルドと共にグレタ婆さんが城を去り、フォンは不安定になった。

 グレタ婆さんも気にしていたが、本業の養鶏がそろそろ気になるとも言っていた。


 暗い顔をして魔塔に行き、疲れ果ててオルドに支えられるようにして帰ってくる。


 ある日ガタガタ震えているので、フォンの部屋で抱きしめて眠らせた。


 そう、抱きしめただけで、抱いていない。

 ――なかなかの苦行である。

 だって、俺は時々会議で精神的に疲れるだけで、体力があり余っているんだから。



 実は、サァラに釘を刺されている。

「女の子は、精神的に参っているときはぬくもりがほしいんにゃ。

 エッチまでは求めていないことが多いん。

 無意識だけど、妊娠しても安心な状況で、心が解放されていないと楽しめないにゃ」


「つまり、フォンを抱っこして、あやしてやるだけってことか?」


「そう。フォンは自分から誘える子だから、あからさまに求められないときは我慢してあげて。

 トーマがモテるのって、相手のことを考えてくれるところだと思うん」

 そう言って、ニッと笑った。


 そんな大層な人間じゃないんだが。

 そこまで信頼を寄せられたら裏切れないじゃないか。



 仕方ないなぁと天井を見ながら、フォンの髪を撫でた。

 部屋に戻らないことでオルドに何か言われるかと警戒したが、ベルーフのようにからかってくることはなかった。




 エリオットも、商業ギルドが領地に帰ってから、迎賓館に来る回数が減った。

 フォンのことは魔塔に任せ、レスタール王国の件は外国や冒険者ギルド本部が動き出ている。


「もう私たちの出番はないかもしれないな」

 エリオットは肩の荷が下りたのか、寂しいのか読み取れない表情で、そう言った。


「王都での状況を報告するために、トゥルメル領に一度戻ろうかと思っているんだ」

 と続けた。


「ルナとサァラ……それに『光牙の道標』たちはどうするんですか?」

 今はエリオットがいるから領主のタウンハウスに滞在しているけれど、不在になるなら出ていかないといけないのでは?

 光牙の道標の一人、オルドはフォンに付き添って魔塔に通っている。


「もうぬいぐるみを積んでいないから、領主軍の護衛だけで帰っても大丈夫だろう。

 だから、どうしようか考え中なんだ」


「それなら、出発前にお願いがあります。

 エリオット様の屋敷にフォンを休暇として連れて行くか、ルナとサァラを迎賓館に連れてきてもらえませんか。

 フォンの限界が近い気がするんです」


 そして、俺も限界だった。


 オルドは魔塔のマッドサイエンティストからは守ってくれるが、寄り添って癒やすタイプではない。

 俺一人でフォンを支えきるのは、無理だ。


 彼女に眠りを誘うハーブティーを淹れているが、気休めにしかなっていない。

 最近のフォンは、不安を言葉にすることもできなくなっている。



「なるほど。それも心配だね。

 宰相補佐にでも相談してみよう」


 そう請け負ってくれて、数日後にはルナとサァラが登城する手配をしたと聞いた。

 魔塔に行くのも、二日間休みにしたそうだ。

 オルドは「光牙の道標」の今後について相談するため、エリオットの屋敷に行く予定。


 久しぶりに四人水入らずだ。

 フォンもそれを聞いて、嬉しそうに目を潤ませた。

「早く会いたいわ」

 そう、か細い声で言った。


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