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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十三章 過去と未来と

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ぬいぐるみの量産体制

 商業ギルドの人たちは連日会議を重ね、生産体制の試算をしていた。


 その結果――ぬいぐるみの製作は、注文に対してトゥルメル領の生産力では応じきれないことが確定したそうだ。

 作る人を増やすために、どこかの領と分担して作った方がいい。

 領の一大産業にしたいエリオットは抵抗したが、このままだと運搬時に襲われる危険性が増すばかり。


 協力体制を取って、それぞれに特色を活かせばいいだろうと官僚に説得されたと、食事の時にぼやいていた。



 次の問題は、どの領地にするかだ。

 俺は、隣国レスタール王国の状況を知っているということで会議に呼ばれた。



「レストランのお客様を見ている限り、貴族のお子様が持っていました。

 大事にして、親から譲り受ける物という会話を聞いたことがあります」


「へえ。島では平民の子が遊びまくるから、ぼろぼろになる物だったけどね。

 一角ウサギは革が弱いしさ」

 グレタ婆さんが感心したように腕を組んだ。


「つまり大量生産はしていないが、目の色を変えて争奪戦が起きるほどじゃないんだね?」

 初めて見る官僚の人に質問された。


「そうですね。

 どこで買えるかという話は聞いた記憶がありません」


「あの。レスタール王国の海岸の街で、領主と懇意になると手に入るという話を、行商人から聞きました。あくまで噂として、ですけど」

 商業ギルドで荷物係をしているメルトが手を挙げた。


「逃げてきた移民が、海岸の街でそのまま保護されたのかもしれない」

 グレタ婆さんが鼻にしわを寄せた。


「グレタ婆さんはそこに留まらないで、レスタール王国を横断してファルガン共和国まで来たんだよね。

 訊いていいのかわからないけど、なんで?」

 不躾な質問だ――ためらう気持ちはあるが、思い切って口にした。

 レスタール王国でどんな人たちが作っているかは、今後の状況を左右するかもしれないし。


 それに……どの国を選ぶかという問題に、とても興味がある。

 俺自身、レスタール王国には戻らないと考えているけれど、いつか山猫亭に顔を見せに行きたい気持ちは残っている。

 食事もたまに……体調を崩したときには、故郷の料理が恋しくなることがあるんだ。



「……警備兵とのやり取りで、ちょっと嫌な予感がしたんだよ」

 グレタ婆さんが首に手を当てながら、言いたくなさそうな雰囲気を出した。


「ああ、移民を平民にする制度がないから、保護した人の財産扱いになるんだっけ……」

 俺は記憶を辿りながら、嫌なことを口にした。

 使用人扱いならいい方で、雑に扱っても文句が出ない労働力だ。


「それで、領主が人脈を拡大するために利用したりしているのかもしれないな。

 その場合は販路拡大する気がなく、競合相手にならないと見ていいだろう」

 そう官僚がまとめた。

 商業ギルドの人たちもホッとしている。


 ――移民の人権問題には触れないのね。他国の話だしな。



 グレタ婆さんから、提案が出た。

「私と同じように、島から亡命してきた人を受け入れてくれた領地がいい。

 それならば、改めて教える手間がかからないだろ?

 それに……受け入れてくれた領主への恩返しにもなる」

 ほんの少し、はにかんだような顔――珍しく照れているようだ。


「なるほど。それなら、文句のつけようがないな」

「金儲けの匂いを嗅ぎつけて騒いでいる連中が、目を点にするのが楽しみだ」

 会議はその方向で一気に話が進んだ。



「移民を受け入れてくださった、トゥルメルの先代様にご恩返しができたかね」

 グレタ婆さんがエリオットを見る。


「そう言っていただけると、曾祖父も喜ぶでしょう」

 エリオットは貴族らしい微笑みで応えた。



 会議が終わってから、エリオットは苦笑いして言った。

「荒れ地を開墾してもらったわけだから、まあ、お互い様なんだけどね」


 ともあれ、ぬいぐるみの騒動はうまくまとまったんじゃないだろうか。


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― 新着の感想 ―
「人権」という変な言葉は、一国の王族全員を平民達の間で殺さないと産まれ得ないのよなぁ……
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