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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十三章 過去と未来と

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王城での日々

 昼食が終わり、商業ギルドチームは王宮の会議室に戻っていった。

 エリオットはそれに同行し、領主の意見も取り入れてもらうのだと言っていた。

 どれくらい発信地としての立場を守り、利益を確保するか――政治的な駆け引きをしてくるのだろう。



 俺はまた迎賓館の資料室に行くことにした。

 興味深いが、すぐに使う当てのない知識だ。どうしても集中力が途切れがちになる。


 役に立つこと、必要とされることが、その場にいるための条件だった俺。

 こんなゆとりのある時間が、不安をかき立てる。

 まだ、数日前の命のやり取りの方が、生きているという実感があった。


 ああ、こういう思考は「健全」じゃない。

 村長の息子のエドガーさんに知られたら、怒られそうだ。自分を粗末にするなと説教されるに違いない。

 ――いけない。

 極限まで緊張状態だった数日間の、反動が来ているだけだ。興奮して恐怖が麻痺していただけ。

 日常は退屈ではなく、怠惰ではなく、平和をありがたいと思うべき。


 俺は頭の中で理屈を並べて、不安を払拭しようとした。

 心がついてこなくても、思考に歯止めをかけるんだ。


 微かに使用人たちが働く気配がする。掃除して、洗濯して、客の世話をして――。

 このまま暇だったら、手伝いたいくらいだ。



 結局、俺には一日中お呼びがかからなかった。


 運動できる場所を使用人に尋ねたら、騎士団の訓練場があるという。

 でも、そこに行って混ぜてもらうとか、たぶん無理だよな。場違い感がすごいだろうし、偵察に来たと疑われたら困るし。



 ――煮詰まっているときは、体を動かした方がいい。

 ふいに、そんなことが頭に浮かんだ。


 筋トレすればいいじゃないか。さて、どこならやれそうか、それが問題だ。

 エリオットが持ってきてくれた普段着は、「貴族が考える普段着」ですごく立派だ。

 布からして別物で、動いて破ったら大変だ。


 資料室に備え付けの紙とペンを使わせてもらっているが、裾を汚さないように気を使う。

 男性の服でこれだから、女性のひらひらした服だったらもっと大変だろうな。

 いや、エリオットは裾にレースがついているのを着ていたことがあったわ。

 つくづく、俺は庶民でよかったよ。



 結局、部屋に戻って下着姿になって筋トレをすることにした。

 これなら服を汚したり、しわだらけにしたりする心配がないぞ。

 しかし、昼間からパンツ一枚というのは変態っぽいなぁ、と苦笑いしてしまった。


 二人部屋だからオルドがいないうちに、こっそりやってしまわないと。

 ルナに言ったら、笑うかな。呆れるかな。一緒にやろうと言い出したりして?

 そんなことを考えていたら、自然と笑みが浮かんできた。




 夕方になって、商業ギルドの人たちとエリオットが戻ってきた。

 会議の延長のように、話し合いを続けている。


 馬車の音が聞こえ、フォンとオルドが食堂に入ってきた。


 フォンは額に布を巻いている。


「怪我したのか?」

 食事を中断して駆け寄る。

 フォンの顔色が悪い。いや、今朝と同じくらいか……よくないな。


 本人が答える前にオルドが説明してくれた。

「怪我ではない。

 サークレットを直接額に当てないという実験だ」


「そっか。それならよかった。

 でも、それで具合が悪いのか?」


 フォンが力なく微笑んだ。

「少し違和感があるだけよ。

 ルナが制服を着て『動きが阻害される』と文句を言っていたみたいに」


 ああ、旅の間、ずっと言っていたな。



 遅れてきた二人の分の料理が運ばれ、夕食は和やかに進んでいく。



 食後にフォンは、エリオットから手紙を受け取り、涙ぐんだ。

 何て書いてあったのかな。

 気になるけど、フォンが微笑んでいるからいいか。


 ちらっと、俺がもらった手紙をフォンに見せたら、「あの二人らしい」と笑うかもしれないと思った。

 だけど、やめておく。

 他の人に見せていいのか、本人に確かめないとわからないしな。


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