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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十三章 過去と未来と

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現在地

 商業ギルドの「夜這いウサギ」の話は、あっさりケリが付いた。

 一時的に妙な流行があっただけで、本来は家庭的アピールのための存在なのだ。

 よく聞けば、他の動物のぬいぐるみもあるという。

 おかしな噂が出る前にそちらも準備しておけばいい、と。



「すべてが一度ひっくり返るくらいの大ごとかと思いきや、そうでもなかったんですね」

 迎賓館の食堂で昼食を取りながら、商業ギルドの人たちから話を聞いているところだ。

 ちなみに、フォンとオルドは魔塔から戻ってきていない。


「さすが国の官僚というか……動じたのは一瞬で、すぐに過去の例を出して、対策できると言われたよ」

 商隊長のロイは、ホッとして顔色が戻っている。今朝は悲壮な顔をしていたもんな。


「後で他の人からバラされたら困るけど、事前に知っていれば大丈夫だって」

 旅の間は荷物係をしていた女性が、肉にソースを絡めて口に入れた。

 今朝は食欲なさそうだったけど、今はパクパクと食べている。


「夜這い云々の言いがかりをつけられたら、『それは一過性の流行で、文化的背景は……』って、高尚な話に持っていくらしい。

 逆に、『性風俗をよくご存じですね』と相手の品位を落とすこともできると、楽しそうに話していましたよ」

 会計担当のセディは、領地ではそれなりに貴族とやりとりをしていると言っていた。だが、王城の貴族はまたひと味違うらしい。

 厳格というか、国政的な規則まで意識している反面、視野が広くて「それくらい大したことない」と問題を解決していく。


 そんな、商業ギルドの人たちの感想や意見交換を聞きながら、楽しそうだなと思う。


 商売が好きで、それを売って買った人が幸せになる。

 商品を見抜く目を磨き、流行を察知して、経済を回していく。

 ――そんな情熱と誇りがあった。



 俺は午前中は会議に呼ばれなかったから、迎賓館の資料室で本を読んでいた。

 外国からの客に向けて、自国を知ってもらうような資料が多かった。

 知らない土地や文化、想像できない食べ物など……それはもう、たくさん。



 たいていの平民は、自分の生まれた領地から出ることはない。

 俺は、レスタール王国の王都にも、カルディーネ領の領都にも行ったことはなかった。


 それなのに隣国のファルガン共和国の王都に来て、王城にいる。


 ふと我に返り、考えた。


 どうしてこうなった?

 俺はどこに向かっているのだろう?



「トーマはぽけーっとしているな。どうかしたのかい?」

 エリオットに話しかけられて、驚いた。


「え、いつの間にいらっしゃったんです? 午後に会議があるんですか?」

 食堂の入り口は開いた状態だし、考え事をしていて気がつかなかった。

 サァラがいたら、冒険者失格と言われてしまう。


「諸々の進捗状況を確認しないと、何がどう転ぶか油断できないからね。

 魔塔組の二人は、昨日はいつ頃戻ってきた?」


「夕食の直前ですね」


「それなら、今日はその時間までいようかな」

 エリオットの言葉を聞いて、侍従が迎賓館の使用人に希望を伝えに行った。



「そうそう。トーマにはこれを渡さないと」


 手渡された紙には、ルナとサァラの言葉が書いてあった。

「筋肉が落ちやすいんだから、筋トレは欠かさずに!」

「王都の美味しい物を調べておくから、期待しててねん」


「あは。なんだ、これ」

 目元が熱くなる。

 横からエリオットの視線を感じ、平静を保たなければと思った。

 ――こんなところ、見ないでくれ。


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