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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十二章 王城

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食後の散歩

 混乱に陥った商業ギルドのメンバーを残し、俺たちは部屋を出た。

 まだ、話し合わないといけないことが残っているんだ。


 俺は、フォンとオルドと夜の庭園を歩いた。

 かがり火が揺れる。


 二人のうちどちらかが話し出すかと待っているが、なんとなく沈黙が続いている。


「商業ギルドも大変そうだな」

 いきなり本題に入るのも何かと思い、世間話を振ってみた。


「人の思惑が絡むと複雑怪奇になるなぁ」

 あまり人付き合いに関心がなさそうなオルドが、他人事のように言う。

 複雑で難しいのは同じでも、魔法の方が断然いいと笑った。


「さて、と。

 自分で話すか? 私から話すか?」

 オルドはフォンに問いかけた。


 うつむき加減で歩いていたフォンは、少しためらってから口を開いた。

「……自分で話します」


 なんとなく折り返して、噴水のところまで戻ってきた。

 至る所にかがり火が焚いてあるが、遠くまで行くとさすがに暗い場所が増えてくる。


「このサークレットは盗聴機能の他に、洗脳の機能も付いているらしいの」

 フォンが額のサークレットに触れた。

 旅の間はヘッドバインドで隠していたから、それを見て「無事に任務を終えることができた」なんて考えていた。


「洗脳?」

 すごく物騒な単語だ。

 精神に干渉する魔法って、禁止されてなかったっけ?

 ああ、魔法については詳しくないから、わからない。


「どこまで洗脳されているのか、どこからは本来の自分なのか……わからないの」

 フォンの声が震えた。


 とんでもないことだよな、たぶん?

 驚きすぎて、何て言っていいか……かける言葉が見つからない。下手な慰めなんかは、逆効果になりかねないし。


 噴水の涼しげな水音が耳障りだ。


 ――それはすごく不安になるんだろうな。

 現実感がなくて、どれだけ辛いことなのか理解できないのが、申し訳ないけど。


 えっと、オルドがいなかったらハグするけど、そんな場合じゃないよな。




「過去の記憶は、一度線引きするといいよ」


 突然、暗闇から声が聞こえて、本気でびびった!


 心臓がバクバクしている。

 なんだよ、もう。誰だ?

 声がした方に目を遣ると、彫像の影にあるベンチにグレタ婆さんが座っていた。



「すまないね。盗み聞きするつもりはなかったんだけど」


 婆さんがいるのに、俺たちが気がつかなかったんだ。

 王城ではどこに人がいるかわからないから、気をつけないとな。


「商業ギルドの話し合いで、いたたまれなくなっちまってさ」

 グレタ婆さんは眉尻を下げて、にへらっと笑った。


 そりゃ、そうだろ。

 商業ギルドの人たち、パニックになってたもんなぁ。



 グレタ婆さんはベンチの隣を叩いて、フォンを手招きした。

「子ども時代からそのまま地続きで生きている人が多いけど、何かあって分断している人もいる。

 あたしみたいにね。

 だから思い出の真偽がわからないならそのままにして、現在と未来と切り離してしまいな」


 フォンの頭をなでながら、少しぶっきらぼうに言った。


「婆さん、いいことを言うじゃないか」

 オルドが褒めた。


「まあ、人生、なるようになるさ」

 グレタ婆さんはいつもの調子を取り戻し、カラカラと笑う。


「それ、商業ギルドの人たちの前で言わない方がいいよ」

 俺が脱力しながらそう言ったら、グレタ婆さんは「ふふ」と不敵に笑い、親指を立ててポーズを決めた。


「人生の試練を楽しめるようになったら、一人前さ!」


 迷惑な婆さんだ。


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