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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十二章 王城

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ぬいぐるみの真実

夕食は商業ギルドの面々と、グレタ婆さん、フォンとオルドといった顔ぶれだ。

興奮気味の商業ギルド勢とは対照的に、フォンは暗い顔をしている。

オルドは我関せずといったふうで、俺はどうしていいか迷った。


とりあえず話しかけてみるか。

「魔塔の方はどうだった?」


「実験動物にされないよう、主導権を握るのが大変だった」

オルドがため息を吐いて、短く言った。

「後で話す」


早々に会話を切り上げようとするのを感じ、俺は小さくうなずいた。



商業ギルドの方も、壮絶な主導権争いが繰り広げられたらしい。


他の領から「注文が溜まっているなら協力する」と、製法の開示を求められたり。

運搬を引き受けるという大手の商店が圧力をかけてきたり。

王族が外交に使えるから独占したいと言い出したり――。


明日はエリオットにも会議に参加してほしいそうだ。

利益が絡んだ場合の貴族たちは、商業ギルドの後ろ盾を持ってしても太刀打ちできないのだろうか。


「ああ。エリオットさんは明日も来ると言っていましたよ」


商業ギルドの人たちが、一斉にほっとしたのがわかった。

急に食べ出した人もいる。

心配で食欲がなかったのか。商売もたいへんだな。



「今さら言いづらいんだけど……」

グレタ婆さんが気まずそうな顔をした。


「ぬいぐるみは種類によって意味が違うんだが、兎のぬいぐるみは……夜這いの合図なんだよね」


は?

今、なんつった?

誰かが吹き出し、メイドさんが慌てて「大丈夫ですか」と飛んできた。

給仕している従僕も耳をこちらに向けている。


「ほら、兎は多産だし、めでたいだろう?

一角兎の革を扱える器用さ、子どもが好むものを作れる母性本能、そういうもののアピールから始まっているんだ」


そういう考え方はわかる。

家庭的な面を見せて、結婚相手に選んでもらおうというのは、よくある風習だ。


「私らより上の世代にものすごくモテる男がいてね、兎のぬいぐるみをたくさんもらった。

そして、そのぬいぐるみを贈った女の子たちと『いい仲』になったんだよ。

いつの間にか告白のアイテムになって、気がついたら夜這いの許可状のようになっていた」


途中で、ものすごい曲解が入ってないか?

論理の飛躍があったような……。


「そのうち、親が娘にうさぎのぬいぐるみは与えなくなっていって、夜這いの合図として完成された。

だから、隣国で貴族のお嬢さんが持って歩いていると聞いて驚いたよ」


庶民と違って、お貴族様は貞操が大事らしいから……そんな意味だと知っていたら、持ち歩かないよな。


「あのときは養鶏場が潰れるかもしれないという状況だったし、討伐に来てくれない冒険者たちに腹が立っていた。

兎のぬいぐるみをもらえなくて、母親に作ってもらって見栄を張る奴もいた。そういうのは、すごく馬鹿にされたんだ。

だから、屈強な冒険者が知らずにぬいぐるみを抱えていたら、陰で笑ってやろうと思って……。

ちょっと意趣返しというか、こんなに大ごとになると思ってなくてさ」


グレタ婆さんは困ったように、苦笑いする。まるでいたずらがバレた悪ガキのような――。


な、なんじゃ、そりゃ。


「王様が他の国の姫への贈り物に使うとか言い出したから、さすがにマズいんじゃないかと思ったんだけど。

……マズいよね?」


そら、マズいわ。

今から王様に何て言えばいいんだよ?


商業ギルドの人たちの顔色が青くなっている。

襲撃や謁見でも顔色ひとつ変えなかった、商隊長のロイも口をパクパクさせるだけで言葉が出てこない様子。


お、俺、知らねぇ……。


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